第82話 久々に会った友達はやはり美しかった

「高嶺さんまだかな?」


(……って言っても僕がただたんに早く着きすぎただけなんだけど……うん、やっぱり、何度スマホを見ても十時までまだまだある。でも、それくらい楽しみなんですよ!

 まぁ、高嶺さんが来るまでに忘れ物はないか確認しておこう。水着、財布……うん、完璧だ!

 することなくなっちゃった……。

 あ、アプリゲームでもして時間を潰――い、いや、アプリゲームなんかしてる暇ない。珠から言われた通り、練習しないと……!

『い~い、お兄ちゃん。久しぶりに高嶺お姉さんに会えたからって緊張して何も話せなかったじゃダメだよ? まずは、気持ちよく挨拶すること。挨拶は大事だからね!』

 ……って、珠は言ってたし挨拶の練習でもしてよう。本番で噛まないためにもね。

 おはよう、高嶺さん……おはよう、高嶺さん……。

 うん、こんな感じで大丈夫かな……?)


「あ、お、思井くん……おはようございます!」


「た、高嶺さん……! お、おはぼう……!」


(……噛んだ!

 だって、いきなり高嶺さんが隣に現れるんだもん! ビックリしちゃうに決まってるよ!

 ……あれ、でも――)


「た、高嶺さん……どうしたの? 時間、十時まではまだあると思うんだけど……」


「い、いえ……その友達として、思井くんと遊びに行くのは初めてなので緊張して早く着いてしまったと言いますか……その、お、思井くんに早く会いたくて我慢出来なくなったと言いますか――」


「高嶺さん……」


「あ、も、もちろん友達としてですよ!」


(真っ赤になりながら高嶺さんは言ってくれて――よく考えてみればいつも高嶺さんは素直に自分の気持ちを言ってくれてたんだよね。なのに、僕は聞き逃したり気づかないようにして――僕も口にしないといけないよね!)


「そ、それより、思井くんの方こそ……私よりも先に待っててくれて……も、もしかして、私の時計が全部壊れてて本当はもう十時過ぎちゃってますか!?」


「……ううん、僕も早く高嶺さんに会いたくて家を出て待ってたんだ」


「そっ……す、すいません、遅くなっちゃって……」


「ううん、高嶺さんが謝ることなんてないよ。僕が随分早く着いちゃっただけだからさ。時間もまだまだ余裕だよ。それに、待ってる間も凄く楽しかったから」


「~~~っ、そ、そうですか? それは、その何て言えばいいのか分からないんですけど……そう言ってもらえて嬉しいです!」


(う~ん、気のせいかな? 高嶺さんいつもより今日はモジモジとしているというか……チラッと目が会う度に逸らされるけど、口は微笑んでくれていると言うか……にしても、私服姿の高嶺さん……一段と可愛くて眩しい……!

『それから! ちゃんと私服姿を褒めること! お兄ちゃんの言葉なんて嬉しいかは分からないけど、女の子は褒められると喜んじゃう生き物だからね!』

 ……ってことも珠から強く言われてたし……よし、言うぞ!)


「た、高嶺さん……!」


「なんですか?」


(……っ、この何てこともない普通の表情を前にするとどうしても言葉が詰まってしまう……。僕は、弱虫。けど、変わるって決めたから――)


「その、白いワンピース姿……とっても似合ってるね……!」


「……っ、そ、そうですか!? す、少しおとなしくし過ぎかと考えたけど……思井くんにそう言ってもらえると着てきたかいがあります……!

 お、思井くんの方こそ……きょ、今日は一段とカッコよく見えますよ……~~~っっっ!」


「あ、ありがとう……!」


(やった……やったよ、珠。ありがとう!

 でも、高嶺さんに真っ赤になりながら言われると僕の頬も熱くなっちゃうな……。なんて言うか服装っていう何でもないことだけど……それだけでこんなにも嬉しくなって恥ずかしくなっちゃうものなんだ……)


「い、行きましょうか!」


「そ、そうだね!

 ……あ、ちょっと待って」


(ラインメッセの通知? 水華さんから?

【いいですか? 氷華を他の狼男からちゃんと守るのですよ! 後、もし、氷華に変な気を起こせば……ぶっ――自主規制――しますからね】

 ……き、気を引き締めて気をつけないと……!)

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