第32話 友達?それとも、話し相手?

「ま、まぁ、もし、笠井さんが忘れていなくても、多分周りに広めたりなんてしないと思いますよ?」


「そ、れは、そうだと思います。笠井さんと話してみて、良い人だということは分かりましたから。だって、こんなこと言ってくれたんですよ?

『高嶺さんって、皆が話しかけづらいって言ってたけど、実際に話してみると案外話しやすいんだね! 楽しかったから、これからも、ちょくちょく話そうよ!』……って。私、こんなこと言われたの始めてで嬉しくて、是非って答えちゃいました!」


「良かったですね、高嶺さん」


「はい!」


(……確かに、笠井さんは僕にも同じようなことを言ってくれた――。

『思井くんって、いつも一人でいるから一人が好きなのかと思ってたよ。でも、これだけ面白い人だって分かったから、これからは沢山お話しようね!』……って。

 多分、笠井さんには悪気なんてない。でも、ひとつ言わせてください! 僕は一人が好きでもあるけど、僕が一人なのはボッチだからなんです!

 ……天然失礼元気っ娘――友達になれるかな?)


「高嶺さんは笠井さんと友達になれそうですか?」


「と、友達ですか!? 友達……友達、になるんでしょうか? それとも、ただの話し相手……?」


「そこなんですよね! 友達と呼んで良いのか、話し相手なのか……友達の定義って改めて難しいですよね!」


「わ、私と思井くんはこ、恋人……ですけどね!」


(な、なんで、急にそんなこと言うんですか!? って、高嶺さん、恥ずかしいなら言わないでいいですから! ちゃんと、分かってますから!)


「そ、そうですね!

 ……あ、も、もう、分かれ道ですね……」


「あ、本当ですね。もう、お別れですか……」


「……高嶺さん、送っていきましょうか? その、今日は僕のせいで遅くなった訳ですし、まだ明るいと言っても――」


(夏に近づくにつれ、開放的な気分になるのか下半身露出の変質者が沢山出没してくる。いくら、高嶺さんの家が高級住宅街にあるといっても、変質者の考えはよく分からない。万が一ということも――)


「……いえ、お気持ちだけ頂いておきます。ありがとうございます、思井くん」


「そうですか? じゃあ、なるべく、早く帰ってくださいね。それじゃ――」


「あ、お、思井くん!」


「はい?」


「敬語に、なってます……」


「……あ、そうですね……ついつい……」


「まぁ、慣れないとは思いますけど……私は、敬語の思井くんもそうじゃない思井くんもどっちも良いと思うので……その――」


(高嶺さん、敬語じゃない方がいいのかな? 今も、キラキラと目を輝かせながら期待の眼差しで見てくるし――)


「う、うん……分かり――わ、分かったよ、高嶺さん。僕、高嶺さんには敬語を使わないように頑張ってみるよ!」


「は、はい!」


(あぁ~~~、高嶺さん嬉しそうにしてくれてる~。これくらいのことで高嶺さんが喜んでくれるなら、僕はいくらでも頑張れますよ!)


「じゃあ、高嶺さん。また明日……ば、バイバイ!」


「はい、また明日。さようなら」


(……って、別れたけど、一応高嶺さんが見えなくなるまでは見ておこう。いつ、不審者が現れるか分からないからね)


「……………」


(……なんだろう、沢山の視線を感じる。それに、なんかヒソヒソと――)


「ねぇ、あの人何してるの? もしかして、ストーカー?」

「え、ヤバいじゃん。じゃあ、とりあえず警察に連絡しとく?」


(……あ、これ僕が不審者になってますね! はい、今すぐ帰ります! 走って帰ります! 別に逃げた訳じゃないですから! 彼女の無事を見届けたからですよぉぉぉ!)

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