第16話 高嶺さんへの愛を語る

「さ、こちらです。どうぞ、お入りになってください」


「し、失礼します」


(こ、ここが、高嶺さんのお姉さんの部屋……スゴい、部屋にある物全部高嶺さんの部屋にあるのと同じだ……! しかも、形とか色まで同じとか……スゴいしか、感想がない!)


「ふふん、どうですか? 私の部屋は? 素敵だと思いますでしょう?」


「あ、はい、とても素敵ですー」


「そうでしょうそうでしょう。ささ、どこにでもお座りください」


(と、言われましても……いちいち、困るんですよ! また、机の側でいいや)


「おや、そこに座るのですか? 私はてっきりベッドに座るのかと……」


「いっ!? お、お姉さん、いくらなんでもするはずないでしょう?」


「そうですか。では、私はベッドにでも……」


(……っ、高嶺さんのお姉さんの艶かしい生足が目の前に……!?

 なんだ、これ! 既に、僕は試されているのか!?)


「さて、私があなたをここに呼んだ理由ですが――」


(……ゴクッ!)


「氷華を共に愛で合いましょう!」


「……ヘッ!?」


「氷華はそれはそれは可愛いでしょう!? あんな見た目なのに、中身は意外とポンコツ! 誰か信頼出来る人が近くにいてくれないとすぐに寂しがって……でも、逆にいてくれるとすぐに気を抜いてしまう可愛らしさ! それに、少ーしだけ、残念なバストを少しでも大きくしようと毎日毎日、せっせと牛乳を飲む努力してるところとか! もう、あの子は存在してるだけ可愛いのです! あなたもそう思いませんか!?」


「いや、あの、落ち着いてください、お姉――」


「それだけじゃありません。艶々の美しい黒髪、プニプニで柔らかい頬っぺた、すべすべで滑らかな肌。あの子を構成するもの全てにノーベル賞をあげたいくらいですよ! ハァハァ……」


(い、いきなり、オタク特有の話し方になっちゃって、息が上がったのか……。高嶺さん、オタクか――。

 ま、まぁ、オタクの僕も好きなことについて語りだすと止まらない時があるしお察しします)


「つ、次はあなたの番ですよ。さぁ、氷華に対する愛を語ってください」


(と、言われましても、高嶺さんとやっとまともに話し出したのも実は数時間前なんです。昨日は告白した時に少しだけ話しただけで、昨日までは挨拶すらしなかったんですよ……。

 でも、それなのに、高嶺さんは積極的に僕に話しかけてくれたんだよな……意図は分からないけど……高嶺さん――)


「――高嶺さんの、誰かに対して一生懸命になれるところが素敵だと思います。高嶺さんの、分け隔てなく、誰にも優しいところが素敵だと思います。高嶺さんの、誰かのことを幸せにしてくれるところが素敵だと思います」


「なんだか、つまらないですね。もっと、他にあるでしょう? アワアワしてるところとか、すぐに真っ赤になるところとか!」


「確かに、高嶺さんのそういうところも可愛らしくて良いと思います。でも、まだ高嶺さんのこと、僕は全然知らないんですよ。だって、付き合い始めたの昨日からなんで」


「こ、交際二日目であなたは彼女の家に来たのですか!?」


(そ、それは、僕も驚きました! でも、あなたの妹が誘ってくれたんですよ!?)


「だから、これからもっと高嶺さんを知っていこうって思います……!」


「そうですか……あなたもそれなりの想いをもっているということなのですね……。ま、まぁ、そういう想いがあると知れて良かったのですよ」


「は、はぁ……」


(認めてくれた、って感じなのかな……?)


「あ、あの、お姉さんはどうして髪の色が金色なんですか?」


「ああ、染めたからですよ。私も昔は少しやんちゃでしてね。髪を染めて、短く切って……あ、そうだ。見てください、これ!」


「黒い……ウィッグ?」


「これをかぶって……じゃじゃじゃじゃーん。ふふふ、どうですか? この格好?」


「す、スゴい、高嶺さんそっくりですよ!」


「そうでしょうそうでしょう。あなたも、惑わされるような完璧さでしょう?」


(……いや、二人が並んでいても僕は高嶺さんだって気づく自信がある……。だって……だって、高嶺さんにはない、小ぶりな膨らみが二つあるから! だから、僕は高嶺さんだって気づきますよ! グスッ……!)


「く、クシュン……!」


「あら、氷華が寂し過ぎてくしゃみを……もう、戻っていいですよ。そして、氷華を安心させてあげてください」


「……はい!」

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