第9話 全人類が望んだ地

(『思井くん。少し、お待ちください。部屋を片付けたいので』……って、言って高嶺さんが部屋に消えて、もう十分が経つけど――)


「なんか、めっちゃバタバタいってる……」


(……って、言うか、僕今からどこに入るのか分かってるのか? あの、高嶺さんの部屋だぞ!? 全人類が望んだ未踏の地に足を踏み入れるんだぞ!? ってか、さっきからの、全人類って誰だよ!)


「ハァハァ、お、お待たせしました……どうぞ」


(高嶺さんの部屋のドアが開いた瞬間からいい香りがふわって漂ってくる……。

 あぁ、そうか……僕、今から天国に行くんだ。でも、まぁ、ここで死ねるなら悔いはなし!

 全人類の皆、悪いな。僕は先に逝くぜ――!)


「し、失礼します!」


「は、はい。狭くて汚いですが、どうぞ……」


(……っ、な、なんだ!? この、聖域のような美しさは!? 眩しすぎて、直視できない……!

 部屋の真ん中には小さな丸テーブル。ベッドと本棚、タンス……それぞれが、バランスよく置かれていて、高嶺さんってインテリアの素質もあるの!?

 適当に置いてるだけの僕の部屋も居心地いい感じにしてほしいよ……。ま、まぁ、フィギュアとか同人誌とかがあちこちに散らばってる泥沼に高嶺さんなんて入れられないけどさ……)


「スゴい……綺麗です……!」


「そ、そんなことないですよ。あ、適当にどこにでも座ってください」


(どこにでもって言われても、どこに座れば正解なんだ!? ベッドの上は下心満載って思われるし、何より気持ち悪がられる……。と、とりあえず、机の近くにでも座るか)


「あ、すいません。何も用意してなくて……今、お飲み物をお持ちするので……因みに、牛乳とお茶、コーヒー、新鮮フルーツ牛乳……どれが、いいか希望がありますか?」


(正直、高嶺さんが淹れてくれるなら何でもいいけど……ここは、無難に――)


「じゃ、じゃあ、お茶でお願いします」


「は~い」


(ヤベェ、この感じ……にやける。今までもこれからも、彼女とこーいうやり取りなんてしないと思ってたけど……実際に体感すると、たまらねぇ……!

 二次元の男主人公って誰もこんな気分味わってるのか!? 羨ましいわ、チクショー!)


「……にしても、高嶺さんの部屋……綺麗だけど物は少ないな……。本だって……教科書とか参考書らしいものしかないし……マンガとか読まないのかな……?」


「お待たせしました」


「ひゃ、ひゃい!」


「粗茶ですけど、麦茶です。お飲みください」


「い、頂きます!」


(ゴクゴク……う~ん、麦茶なんて普段も飲んでるのに……一段と美味しいような気がする……!

 高嶺さんは――牛乳か。牛乳、好きなのかな……?)


「高嶺さん、とっても美味しいです」


「そうですか? 良かったです」


(ふふふ……って笑う高嶺さんも可愛い)


「あの、思井くん……そんなに、カチコチにならなくていいですよ? 正座までして……」


「あ、ううん、大丈夫。僕、正座好き? なんです!」


「そうですか?」


「うん。あの、高嶺さんはお嬢様……なんですか? 家もスゴく豪華だし、立ち振舞いも……」


「ち、違いますよ! よく、勘違いされるんですけど私はお嬢様なんかじゃありません。家が大きいのもお母さんとお父さんが頑張って働いているからで私はそんな――」


「そう、なんですか?」


「はい……。昔から、よくお嬢様って勘違いされて。そのせいで、友達も出来なくて……。

 今も私から話しかけてもそれ以降誰かに話しかけられることもないですし、教室で一人でいても、誰も声をかけてくれなくて……寂しいんですよね」


(それは、高嶺さんが高嶺の花だからだと思うけど……。でも、そうか。高嶺さん、クールそうに見えて、実は寂しかったのか……。そうだよな。僕だって、ボッチには慣れたけど、一日中、誰からも声をかけられないのってやっぱ、寂しいもんな……)


「高嶺さん、ごめんなさい。僕、今まで、高嶺さんのこと勘違いしてました」


「い、いいえ、だから、その……こ、告白なんて、大胆でしたけど……その、思井くんが声をかけてくれたこと……と、とっても、嬉しかったんですよ。昨日は冷静をなくして、焦ってあんなこと言っちゃいましたけど……勇気を出してくれて、ありがとうございます」


(……っ、高嶺さん。僕に感謝しないでください……胸がズキズキと痛んでしまうので……!)

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