第1部 13話
「ありがとうキース。うん、千里眼スキルと狙撃スキルはなかなか使えそうだね」
「だろ?これで何時でも習得は可能になっただろうから、スキルを取りたい時に取ると良いさ」
私はギルドのドアを開けながら、アーチャースキルを教えてくれたキースにお礼を言いつつギルドに入る。
教えて貰った二つのスキルはなかなか便利そうだ。暗視能力が備わり、更には遠くまで視認可能になるスキル、千里眼。
弓などの飛び道具を使用しないといけないが、使う飛び道具の飛距離が劇的に伸び、長距離からの狙い撃ちが可能になるスキル、狙撃。
先日の、大量のゴブリン狩りでレベルが12になったので、スキルポイントが30ポイント加算された。
次はどのスキルを覚えるかが悩みどころだ。
と、ギルドに入ってきた私とキースをジッと見つめてくる者達がいた。
「……どうしたの?そんな変な目で。……あっダクネス、新しい鎧出来たの?」
アクシズとダクネスとめぐるんの三人が、テーブルの真ん中に置いた、コップに刺した野菜スティックをポリポリかじりながら私を見ていた。
私はキースに別れの挨拶をすると、三人のテーブルに座り、私も一本貰おうと、野菜スティックに手を伸ばす。
クイッ。
野菜ステイックが私の伸ばした手から逃れるように、ひょいっと身をかわした。
……おい。
「何やってんだよカズナ」
アクシズがテーブルをバンと叩くと、野菜スティックがビクリと跳ねる。一瞬動かなくなった野菜スティックを、アクシズが一本摘まんで口に運ぶ。
「……むぅ、楽しそうですね。楽しそうですねカズナ。他のパーティのメンバーと、随分親しげでしたね」
めぐるんが、拳を握ってテーブルをドンと叩き、怯ませた野菜スティックを摘まみ、口に運んだ。
「……くっ、何だこの新感覚はッ!?カズナが他所のパーティで仲良くやっている姿を見ると、胸がモヤモヤする反面、何か、新たな快感が…ッ!!もしやこれが、噂の寝取られ……?」
おかしな事を口走るどうしようもないのが、コップのフチをピンと指で弾き、そのまま野菜スティックを指で摘まむ。
「なんなの、どうしたのあんたら。昨日の一日レンタル気にしてんの?あれは別に……」
言いながら私はバンとテーブルを叩くと、野菜スティックに手を……
ヒョイッ。
「………………だぁあああらっしゃぁあああああッ!!」
私は野菜スティックを掴み損ねた手でスティックが入ったコップを掴むと、それを壁に叩き付けようと振りかぶった。
「や、やめろぉおお!俺の野菜スティックに何すんの!た、食べ物を粗末にするのはいくないッ!!」
アクシズに腕を掴まれ、私は渋々コップを置く。
「野菜スティック如きに舐められてたまるか!ていうか今更突っ込むのもアレだけど、何で野菜が逃げるんだよ。ちゃんと仕留めたヤツを出してよ」
「何言ってんだ。魚も野菜も、何だって新鮮な方が美味しいだろ?活き作りって知らないのか?」
こんな活き作りがあってたまるか。
私は野菜スティックを食べるのは諦め、イスに座る。
「はぁ……。まぁ、野菜は今はどうでもいい。それよりあんた達に相談があるんだよ。レベルが上がって新しいスキル取れそうだから、次はどのスキルを取ろうかと思ってさ。そういや、あんた達のスキルとかってどんな感じなの?」
そう、効率良くクエストをこなしていくなら、パーティメンバーとの相性を考えたスキルを取っていく方が良い。
そう思って相談を持ちかけたわけだが。
「私は物理耐性と魔法耐性、各種状態異常耐性等で占めてるな。後はデコイといった、囮スキルぐらいだ」
「……大剣修練とか取って、命中率を上げる気はないの?」
「無い。私は言っては何だが、体力と筋力はある。攻撃が簡単に当たる様になってしまっては、無傷でモンスターを倒せる様になってしまう。かといって、手加減してワザと攻撃を受けるのは違うのだ。こう……、必死に剣を振るうが当たらず、力及ばず圧倒されてしまうと言うのが気持ち良い」
「もういい、あんたは黙ってろ」
「……んッ!!自分から聞いておいてこの仕打ち…」
頬を赤らめ、フルフルと震えているダクネスは放置する。めぐるんを見ると、小首を傾げて口を開いた。
「僕は勿論爆裂系スキルです。爆裂魔法に爆発系魔法威力上昇、高速詠唱。スキルポイントは習得済みのスキルのレベルを上げるのにも使えるので、スキルポイントが貯まると、勿論爆裂魔法に全て注いでますよ」
「……どう間違っても、中級魔法スキルとかは取る気はないの?」
「無いです」
コイツも駄目だ……。
「えっと、俺は……」
「あんたはいい」
「ええッ!?」
自分のスキルを言おうとしたアクシズを黙らせる。宴会芸とか宴会芸とか宴会芸とかそんなんだろう。
後はアークプリーストの全スキルと格闘スキルがあったんだっけか。
めんどくさいので省略する。
しかし…………。
「何でこう、纏まりが無いんだよこのパーティは……」
† † † † † † † † †
私はアクシズを引き連れながら、ある所へと向かっていた。めぐるんとダクネスには、今日受けるクエストで手頃な物を探してもらっている。
私達のパーティはバランスが悪い。
とにかく偏り過ぎている。
アクシズはプリーストとして自体はまぁ優秀なのかもしれないが、ダクネスが硬すぎて回復魔法の出番が殆ど無い。
めぐるんは最大瞬間火力においては他のウィザードの追随を許さないが、とにもかくにも一発コッキリだ。
ダクネスは硬いだけで火力面では期待出来ない。
当面の問題としては、安定した火力。
となると、私がスキルを覚えるなりなんとかしないといけないのだが、私が剣振り回して戦うにも、やはり一人では限界がある。
教えて貰った狙撃スキルを習得して、ダクネスが敵を引きつけている間に弓で援護。
これでも良いが、もう少しこう、メインの武器になるスキルが欲しい所だ。
「よし、着いたよ。いいアクシズ。今の内に言っとくけど、絶対に暴れるないでね。喧嘩しないでよ、魔法使わないでよ。分かった?」
それは小さな、マジックアイテムを扱っている魔法店。それを見て、アクシズが小さく首を傾げる。
「おい、何で俺がそんな事しなきゃなんないんだ。一度言っときたいんだけど、カズナって俺を何だと思ってんの?俺、チンピラや無法者じゃねぇぞ?神だぞ?神様なんだぞ?」
私の後ろで文句を垂れるアクシズを引き連れ、私は店のドアを開け、中に入った。
ドアに付いている小さな鐘が、カランカランと涼しげな音をたて、私達の入店を店主に告げる。
「いらっしゃ……ああッ!?」
「あああッ!?出たなこのクソアンデッドッ!!お前、こんな所で店なんて出してたのかッ!?
神であるこの俺が馬小屋で寝泊りしてるってのに、お前はお店の経営者ってわけかッ!?リッチーのクセに生意気な!こんな店、神の名の下に燃やして痛だッ!?」
私は店に入るなりいきなり暴走を始めたアクシズの頭を、ダガーの柄で軽く殴る。
そのまま後頭部を押さえて踞るアクシズを他所に、私は怯える店主に挨拶した。
「やっほーウィズ、久しぶり。約束通り来たよ」
「……ふん、お茶も出ないのか?この店は」
「あっ、す、すいませんッ!!今すぐ持って来ますッ!!」
「持って来なくて良い!いや、客にお茶出す魔法店って何処にあるんだよ」
陰湿なイビリをするアクシズの言う事を、素直に聞こうとするウィズを止める。
魔法店なんて初めてな私は、店内を見回して手近な物を何気なく手に取った。
それは小さなポーションの瓶。
「あっ、それは強い衝撃を与えると爆発しますから気を付けて下さいね」
「げっ、マジか」
私は慌てて瓶を戻す。
ついで、隣の瓶を手に取ると……
「あっ、それは蓋を開けると爆発するので……」
私はそっとソレを戻すと、更に隣の瓶を手に取って。
「これは?」
「水に触れると爆発します」
「……こ、これは?」
「温めると爆発を……」
…………。
「ねぇ、この店は爆薬しか無いのッ!?」
「ちちち、違いますよ!そこの棚は爆発シリーズが置いてあるだけですよ!」
おっと、そうじゃない。私は別に魔法の道具が欲しくて来たんじゃない。
勝手に自分でお茶を入れてすすっているアクシズは置いておき、私は本題に入る事に。
「ねぇウィズ、何か、使えるスキルを教えてくれない?リッチーならではのスキルとかあるんでしょ?」
「ぶッ!?」
「きゃああああッ!?」
私の言葉にアクシズがお茶を吹き出し、それがウィズにモロに掛かった。
「ちょっと、何考えてんだよカズナッ!!リッチーのスキル?リッチーのスキルだとッ!?この女に名刺貰ってるの見たときは、一体何する気だろって思ってたら…ッ!!
リッチーの持つスキルなんてロクでもない物ばっかりだぞッ!?そんな物覚えるなんてとんでもない!良いか?リッチーってのは、薄暗くてジメジメした所が大好きな、言ってみればなめくじの親戚みたいな連中なんだ」
「ひ、酷いッ!!」
アクシズのあんまりな決め付けにウィズが涙ぐむ。
「いや、なめくじの親戚でも従兄弟でも良いんだけどさ。リッチーのスキルなんて普通は覚えられないでしょ?そんなスキル覚えられたら結構な戦力になるんじゃないかと思ってね。
あんただって、今のメンバーじゃちょっと強い敵が大勢出てきたらどうにもならない事ぐらいは分かるでしょ」
「むぅ……」
私の言葉に、一応は納得はしたのか、渋々とアクシズは引き下がる。なめくじ発言でちょっとヘコんだウィズが、気を取り直して私を見た。
「え、えっと。それでは、一通り私のスキルをお見せしますから覚えて行って下さい。見逃してくれた、せめてもの恩返しですので……」
そう言って、ウィズはハタと何かに気付いた様に、私とアクシズを交互に見て困った様におどおどしだした。
「えっと、どうしたの?」
問いかける私に、ウィズは怯えながらアクシズを見る。
「そ、その……私のスキルは相手がいないと使えない物ばかりなんですが、つまりその……。誰かにスキルを試さないといけなくて……」
なるほど、そういう事か。
「ねぇアクシズ、悪いけど頼めないかな?」
「ほう?アンデッドがこの俺に何のスキル使おうってんだ?」
ウィズを威嚇するアクシズに、ウィズが怯えたように身を引きながら。
「そ、その……ドレインタッチなんてどうでしょう?ああっ、も、勿論ほんのちょっぴりしか吸いませんので!
スキルを覚えてもらうだけなら、ほんのちょっとでも効果があれば覚えられると思いますので!」
慌てたように口早に言うウィズに、アクシズがにんまりと凶悪な笑みを浮かべた。
一応この二人は、アンデッドの大物、リッチーと神である。
…………どっちがリッチーでどっちが神だったか。
「良いぞ?構わねぇよ、幾らでも吸っても。さぁどうぞ?」
アクシズが自分の手を差し出した。
その手をウィズが恐る恐る手に取って……。
「で、では失礼します…………。
…………?あれっ?あ、あれっ?」
私には何が起きているのかは分からないが、ウィズにとっては予想外の事が起きているらしい。
「ほらほらどうした?俺から魔力や体力を吸うんじゃねぇの?おやおや、アンデッドの元締めみたいな存在のクセに、ドレインすら出来ないのかな?」
余裕たっぷりのアクシズに対し、ウィズがみるみる涙目になっていく。
「あ、あれぇッ!?」
アクシズが、ドレインさせない様に抵抗しているらしい。私は無言でアクシズの後ろから脛を蹴り飛ばした。
「痛ッ!?おいカズナ、邪魔すんなよ!これはリッチーと神の戦いなんだぞ!俺だって神の端くれ、そう易々と吸われてたまるもんか!」
「いや、話進まないから吸わせてやってよ……。ごめんねウィズ、どうもコイツは職業柄、アンデッドが受け付けられないらしくてね」
代わりに謝る俺に、ウィズがとんでもないとばかりに首を振った。
「い、いいえ!そ、その、私がリッチーなのが悪いんですから……。と言うか、神?その、以前私を簡単にターンアンデッドで消し去りかけたり、私の力が効かなかったり……。ひょっとして、本当に神様なんですか?」
あ、ヤバい。
流石にリッチーにもなれば、アクシズが本物の神だと分かるのか。私は未だに、アクシズが神だってのに納得していないのだが。
「まぁな、お前は他所に言い触らしたりはしないだろうから言っておくが。俺はアクシズ。そう、アクシズ教で崇められている神、アクシズだ。控えよリッチー」
「ヒイッ!?」
ウィズがこれ以上に無いぐらいの怯えた顔で私の後ろに回り込んだ。
リッチーにとって、やはり神って存在は天敵に出くわしたような物なのか。
「ねぇウィズ、そんなに怯えなくても良いよ。アンデッドと神なんて水と油みたいな関係なんだろうけどもさ」
宥める私に、しかしウィズは、
「い、いえその……。アクシズ教団の人は頭の可笑しい人が多く、関わり合いにならない方がいいと言うのが街の常識だったので、その、アクシズ教団の元締めの神様と聞いて……」
「何だとぉおおおッ!?」
「ごごごご、ごめんなさいッ!!」
「……は、話が進まない…」
アクシズに首を絞められている涙目のウィズを助けようと、ため息を付きながら立ち上がろうとした、その時だった。
『緊急クエスト!緊急クエスト!街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まって下さい!繰り返します。街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まって下さい!』
それは、街中に響く大音量のアナウンス。
そう、大量の冒険者を必要とする時の緊急のアナウンスだ。
「何?またキャベツ?もうあんな訳の分からないクエストは沢山だよ」
私の言葉に、ウィズの首を絞めていたアクシズもウィズを放して立ち上がった。
「何だろ、まぁこの季節じゃ大したクエストじゃないな。ギルドから結構離れちゃったし、今回は行かなくても良いだろ。他の冒険者に任せとけば良いさ」
アクシズの言葉に、開放されたウィズが咳き込みながらも同意する。
「そ、そうですね。本来なら、冒険者は緊急招集には余程の事情がないと集まらなきゃいけない義務があるんですが……。この店からだと、ギルドまでは距離がありますしね」
「そんなもんなの?デカイモンスターが迫っていて街がヤバいとか、そんな事は無いの?」
私の疑問にアクシズは肩を竦め、
「そんな緊急クエストなら、尚更行きたくないだろ?ま、どうせ大したクエストじゃねぇよ。放っとこうぜ」
『緊急クエスト!緊急クエスト!街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まって下さい!繰り返します。
街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まって下さい!…………………冒険者の皆さんッ!!』
アナウンスの人が息を吸った。
『宝島ですッ!!』
アナウンスのその声に、アクシズとウィズが店から飛び出し、脇目もふらずに駆け出した。
To be continued…
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