第44話 喫茶『MOON』に向かう
私と瑠衣は
喫茶『MOON』に到着すると、店の扉の横には、瑠衣の彼氏の長谷地くんがスーツにスポーツメーカーのロゴ入りのリュックを背負って立っていた。
キョロキョロと周りを見ていた長谷地くんは瑠衣を見つけると、くしゃくしゃの笑顔になって私たちに向かって手を振っていた。
「こんばんは」
「こんばんは」
ふふっ。長谷地くんの印象はリスかハムスターって感じだな。
一緒に倉庫で働いてた時は仕事だったからか笑顔も堅かったけど、瑠衣と見つめ合う長谷地くんは満面の笑顔で、とっても嬉しそう。
瑠衣のことがすごく好きなんだって、伝わってくる。
「ごめん、待った?」
「ううん、さっき来たところ」
東雲菓子店では話が盛り上がり、長谷地くんと落ち合う時間は過ぎてしまっていた。【ちょっと時間遅れるかも】とは瑠衣が先に長谷地くんに、メールで連絡はしていたけれど。
『さっき来た』と言ったのは、瑠衣を気遣う彼の優しさだろうな。
「さぁ、入ろうか」
長谷地くんは喫茶『MOON』のドアを開け、瑠衣と私が店内に入るまで、ちゃんとドアを押さえておいてくれる。
私はドキドキとしていた。
貴教さんと克己さんに好きだと告げられてから、初めて会うからだった。
どんな顔をすればいい?
「いらっしゃいませ」
喫茶店のクラシカルな制服をきっちり着こなし、克己さんがキッチン前に立っていた。
うっすらストライプの入った襟付きの黒いベストは克己さんによく似合っている。ビシッと決まっている。
克己さんはいつもと変わらない笑顔だった。ホッとした。
自分だけがぎくしゃくしてる気がして、私は急に恥ずかしくなっていた。
やっぱり妹みたいな「好き」だったのだ。そう思うことで平静な気持ち、いつもの……、普通の態度に戻れるはず。
克己さんに案内されて、窓際の4人席に私たちは座った。
私はちらちらと克己さんに視線が向いてしまう。克己さんの態度には少しも変わりはない。
「こんばんは」
「あっ」
私たちのあとから入ってきたお客さんは、……マルさんだった。紺色のスーツ姿のマルさん、私に親しげな瞳を向けてくれてるような気がする。
「こんばんは。マルさんでしたよね? 良かったらご一緒にいかがですか?」
向かい合って座っている瑠衣は私の方を見て、ウインクを一つした。
瑠衣の横に座る長谷地くんは、メニュー表に見入っている。
さり気ない瑠衣の誘いに、てっきりマルさんは断るだろうと思ったんだけど。
「じゃあ、お邪魔しようかな」
マルさんは必然的に私の横に座った。ふっと上品なオーデコロンの香りがして、私の胸はどっきんと大きく高鳴った。
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