第14話 励まされるチョコちゃん

 克己さんと私は夏野菜カレーを食べ終わると、私は食器を洗いますと言ってみた。

 克己さんは「いいよ、いいよ。俺が洗うから座ってて。良かったら、俺と貴教がちっちゃい頃遊んだブランコでも乗る?」と言いながら、私たちの食べ終わった皿をキッチンに持って行った。


「すごいですね。家のなかにブランコがあるなんて」

 私は天井からぶら下がったブランコを少し揺らしてみた。

「それ。じいちゃんの手作り」

「へえ。手作りですか」

 孫のためにブランコを作ってあげるって素敵だな。

 喫茶『MOON』の先代の店長さんはおじい様だとトキさんから聞いていた。ご両親はどうされているのかは知らなかった。なんとなく聞ける雰囲気ではなかった。


 私は両親がもういない。兄弟もいないから身寄りはおじいちゃんだけだ。

 こういうことってデリケートな質問だから、聞いた方も答える方も気を遣う。


 なにげない会話で相手にすまなそうな顔をさせてしまう事も私はよくあったので、相手が自分から話さない限りはなるべく触れないのが良いのかなと思っていた。


 派遣の仕事をしていると、違う現場で初対面の人と組むことはよくあったから、そのたびに「初めまして」や軽い自己紹介からコミュニケーションをとる。

 少し仲良くなって家族の話になったりもする。


「仕事も人それぞれのやり方があって当然だよね。効率よくやらなくちゃならないのも、まあ分かるよ。

 僕らはこだわり抜くからこそ、大変だったりするけど。

 何度も失敗もしてさ。

 だけどチョコちゃんの笑顔を見れたから、俺はとことんやって無駄じゃないなってさ。やって良かったなと思うよ、今は」

 克己さんは食器を洗いながらも、私に気を遣って話しかけてくれる。

 

 なんだか克己さんのその言葉と屈託のない明るい笑顔に、私の心は救われた気がした。



 私はちょっとだけブランコに座ってそうっと揺れてみた。


(懐かしいなあ。

 何年ぶりだろう。ブランコに乗ったのなんて)


 

 克己さんと貴教さんのお家で過ごした時間は、寒い日の温かい毛布みたいに包まれるようだった。



 私は夏野菜カレーをご馳走になった後、喫茶『MOON』の店内の方へ克己さんに促されて移動した。

 まだお昼には時間があるのにもかかわらず、お店は満席だった。


 満席じゃあ仕方ないから帰ろうかなと、少し残念に思っていた。


 するとカウンターの横でお客さんを案内し終えたばかりの貴教さんが優しく私に笑いかけてくれた。

「チョコちゃん、相席でも良い?」

 貴教さんはウインクを一つして視線をある席におくると、私もつられてそのテーブルを見た。


(あっ)


 胸のなかがドキンとした。

 マルさんが座っている。


 私は瞬間全身に熱いものが駆け巡っていく感覚に襲われる。

 マルさんを見ただけでなんだか急に恥ずかしくなって。


 私の胸が高鳴っている。

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