第10話 イタズラ

 次の講義からも、ユキは講師にイタズラを仕掛け続ける。


 どの講師も、ユキがやったことだとは気付きはしない。

印刷されたプリントが綺麗に紙飛行機型に折り畳まれて飛んで行ったり、黒板消しがダンスを始めたり、明らかに不自然なことがあっても。


 誰もがそれをよくあることだと、、あまりにもこの世界は魔術に満ち溢れていた。魔力が満ち溢れていたのだ。現代日本で言う『心霊現象』のようなものだと思って、スルーされていたのだ。


 だが、一週間が経って、陰陽五行の2回目の講義のときに、講師は気付いた。一連のおかしなことが、と。


「あなた、真面目に聞いている様子がありませんが、一体ブツブツと何をしているんですか?」


 講師が静かに怒る。


 静かな怒りというのは、恐ろしいものだ。感情にまかせて怒られる方がいっそ何も怖くない。ユキはすっかり萎縮してしまい、本当のことを洗いざらい話した。


「――それで、あなたはイタズラのために魔法を組み立てていたというわけなのね?」

「そうです、でも、悪いことをするつもりはなくて――」


 ただの知的好奇心からのことだった、と言い訳するユキに、講師はそれ以上怒ることはなかった。どころか――魔術専門の自分の研究室の方に入れ、1年生の講義を受けるに相応しくない、と科学者志望のユキにはある意味ありがた迷惑かもしれない言葉を投げつけたのであった。

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