その3 家族の事情について

「ここからはこっちの世界、身分差の無いというこの世界の流儀に沿って話そう。だから私の事はルティと呼んでくれ。そなたの事は何とお呼びすればいいだろうか」

「ではヒロフミでお願いします」

「ヒロフミ殿ですね。分かりました。私はシャープールと呼んでください」

 王がルティで皇太子がシャープールか。よし覚えたぞ。


「さてシェラの事だ。あの子達にはほとんど父親らしい事を出来なかったし、これからも出来ないと思う。仕送りも最小限しか使わないし最小限の必要以外は王宮にも姿を見せない。立場上やむを得ない面もあるがどうにも心残りでな」

 今まで聞いていた事と違うな、と思う。

 でも王、いやルティの言葉に嘘が無いのは自動発動した真偽魔法の結果から見ても間違いない。


「どういう事ですか」

「基礎教育課程を終えた段階で王都の学校からパルディアの学校へと転校願いを出してきた。本人は学問上の理由を並べていたがな。自身が政争の種となるのを好まなかったのだろう」


「どう見ても資質的に他の王子や王女よりも上ですからね、仕方無い」

「それを当事者のお前が言うか」

 皇太子はにやりと笑う。

「事実ですよ。何度か付き合わされたから良く知っています。私より遙かに弁舌も立つし知識の使い方も充分だ。ただシェラは権力だの政治だのを好まない。自分のためにそれらを使う事を嫌っている。それだけです」

 なるほど。


「静かに暮らしたい、そう本人も言っていましたね」

「本音だろう。ならば一刻も早く落ち着く立場をとも思っているのだが。残念ながらシェラの器量に見合う相手となると近隣諸国や国内でも見当たらないのが実情でな。野心の割に頭が今一つだったり、下品だったり……」

「会わない割に親馬鹿だから大変なのですよ。それになまじシェラが優秀なだけに、クシャナさん、つまり今の王妃からは用心されていますしね」

「儂としてはどの子も可愛いのだがな」

「まあそんな訳です」

 なるほど、色々と状況はわかった。


「それでこの救出の件についてだが、礼は何か望むものはあるだろうか。無論金子や宝石類で良ければ出せるだけ出させるが」

「この救出の件は、私はシェラに頼まれただけですからね。主役はシェラです」

「でもシェラは受け取らないだろう。私も王家の一員である以上当然の事をしたまでです、と言われそうだ」

「ですね」

 シャープールも頷く。


「ちなみにシェラの友人の、マリエラとジーナについてはどうします?」

「この辺の謝礼は王家典範で決まっておってな。爵位を持たない者に対する最大報償は男爵か名誉騎士侯への一代爵位の叙爵と、毎年金正貨20の功封だ」

 だいたい金正貨1枚が10万円程度だから、毎年二百万円の不労所得か。

 しかもアトラスティアの一年は244日以下だ。

 これだけで暮らすのも可能だろうけれど、副収入としてみると悪くない。


 空間の揺らぎを感じた。

 間も無くシェラが戻ってくる。


「本当はもう少しシェラの事を話したいですが、そろそろ戻ってくるようです。ですので報告を聞いた後、ルティとシャープールは風呂にでも入ってお休みください。議会が開催されるまでは3日くらいかかると聞いています。まだ話をする時間もあるでしょう」

「そうだな、頼むぞ、ヒロフミ」

「ええ、ルティ」


 その5秒後、シェラが姿を現した。

「告知板に勅書を掲載したところまで確認して戻って来ました。議会開催はこれから3日後、10時になります」

 今まで何回か向こうの世界に飛んだ結果、1日の長さは地球とほぼ同じであることを確認している。

 向こうの10時だと、こちらの午前9時40分位だな。


「よくやった、シェラ。国王としてそなたに最大の感謝をしよう」

 この辺私相手みたいに自然に話せないのかな、ルティは。

 でもその辺は関係性として仕方無い事なのだろうか。

「王家の一員として当然の事をしたまででございます」

 うん、そんな返事をすると思った。


「それでは私達はしばし休ませてもらうとしよう」

「御部屋へ案内致します」

 私も一緒に席を立つ。

 この辺のシェラ達のもどかしい親子関係、どうにかならないかな。

 そんな事を思いながら廊下へと歩き出す。

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