その4 夕食を食べながら

 監禁中の疲れも治療魔法+スポーツドリンク+ゼリー状飲料の組み合わせでかなり取れたようだ。

 少なくとも夕食時に集合した時には大分皆さん顔色が良くなっていた。

 さて、夕食は昨日と同じくコース料理。

 だけれどメニューはしっかり変わっている。

 この内容なら文句は出ないよな。

 そう思った時だった。


「ここにはメイドはいないの」

 王妃が思ってもみなかった事を言った。

「こちらの世界では一般的では無いのです」

 シェラがさらっとそう告げる。

 やんわりと”そんな我が儘を言うな”と諭した訳だ。

 でも王妃には通じなかったらしい。

「ならそこの平民の女2人、ファルサ第五王女ワーラ第三王子の食事の手伝いをなさい」


『するなよ』

『勿論』

 私とシェラとマリエラとジーナ、4人の間でそんな魔法音声が飛び交った。

 さて、国王ことルティはどう出るかな。

 場合によっては援助終わりという事も考えつつ、私、いや私達は王の動向を見る。


「クシャナ!」

 国王ルティの声。

「王家に対する扱いですのよ。それが普通でしょう」

 この王妃様、駄目だな。自分の立場を分かっていない模様だ。

 ついでに王子達の方を見てみる。マナーがなっていないのが2人いた。

 食べ物を散らしたり遊んだりしている。

 アミュより年長に見えるが駄目だな、あれは。

 きっとあれがファルサとワーラだろう。


「クシャナ様、こちらの方々に謝ってください」

 これは皇太子シャープールだ。

「母に命令するというの」

「王命にならないように配慮しているのです」

「もういい、シャープール」

 国王ルティが首を振る。

「下がれ、クシャナ。ファルサとワーラを連れてな」

「私は王妃ですよ」

「余は国王だ」

「ですがこの扱いは」

「王命だ。下がれ。その先を言わせるな」


「失礼します」

 半ばヒステリックな感じで王妃は王子と王女を連れて去って行った。

 国王ルティ皇太子シャープール、他年長の何人かなんとも言えない表情をしている。

 そして国王ルティが立ち上がって私達の方を向いた。

「我が妃らが無作法な真似をして大変申し訳ない。夫で有り責任者としてここで謝らせていただく」


 仕方無いので私も頭を下げる。

「国王自ら謝らせるのも申し訳ないですね」

「アレは王族というものを勘違いしておるのだ。あれでも第一王妃ファリーナがいた頃はまともだったのだが」

「戻ったら後宮の体制を一新する必要がありますね。少なくとも今のクシャナ様の周囲は一掃しましょう」

 皇太子シャープールがため息をついて、続ける。

「あとはまあ、夜中にお腹を空かせるのも可哀想ですから、後でこの夕食の残りをまとめて持って行ってやる位のことはしましょうか」

 国王ルティは頷いて、口を開く。

「皆のもの、済まなかった。それでは食事を続けよう」


 なおペンションの人には、今の事実関係を忘れて貰い、代わりに『子供2人が調子を崩して、母親と部屋に戻った』という説明を魔法で植え付けた。

 3人のご飯はまとめてタッパーに入れて、後程部屋へ持ち帰って食べられるようにしてくれるという。

 とりあえず今の件の後始末はこれでいいだろう。


 さて大分場がしらけてしまった。

 仕方無いから少し場を盛り上げてやるとしよう。

「さて、議会は3日後なので、間に中2日あります。折角ですから明日は気晴らしにという事で、遊園地という処へご案内しようと思います」

 これはこのペンションを予約した時から予定していた事だ。

 本当は明日の朝発表するつもりだったのだがまあいいだろう。


「ほう、遊園地というのはどのようなものだ」

「遊ぶ為の施設が色々ある処です。大人でも充分楽しめるのではないかと。あとで案内をお配りします」

 ここからも近いので、この宿にも割引券付きの案内が置いてある。

「参考までにどんなものがあるのだ」

「ジェットコースターというものすごい早さで上に下に走る乗り物とか、お化け屋敷と言って幽霊や怪物が出てきて驚かす部屋とか、色々です」

「危なくはないのですか?」

「一見危なく見えるのですが、実はきちんと安全管理されています。向こうの係員のいう通りにしていればまず大丈夫です」


「ここの人達は怖いものがお好きなのですか?」

 これは第二王女だ。

 やっと王と皇太子以外が話題に絡んできてくれたぞ。

「一度乗ってみるとわかるのですが、その怖さが楽しさに繋がるのです。もちろんそういったものが嫌いな方用にも色々な施設がありますからご安心を」

「楽しみですね、それは」

「ええ、期待しておいて下さい」

 やっと場が明るい感じに戻ったな。

 ただ問題は残っている。

 あの王妃、明日もやらかさないといいのだけれども。

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