第六話 救出作戦開始前に

その1 高速道路を観光中

 ワゴンタイプとは言え所詮軽自動車。

 この人数だと狭いし、ノンターボなので馬力が無くて高速での加速が辛い。

 荷物がアイテムボックスに入れてあるのが救いという処か。

 そんな訳でパーキングエリアやサービスエリアに寄りながらの道中になる。


「まずはここでトイレ休憩な。あと飲み物は買った方がいいぞ」

 高速に入って割とすぐに第一の休憩で皆を放す。

 ちなみに一人当たり小遣い二千円を財布ごと渡し済みだ。

 シェラはアミュの分を含めて四千円。

 なお財布は昨日100円ショップで購入したものだ。


 さて皆さんどう行動するかな。

 飲み物は買った方がいい、と言ったのは『買い物をしてもいい』という事だ。

 これをどう解釈するか。

 私自身はトイレに寄った後、ペットボトルのお茶を自販機で購入して終わり。


 車で待っていると、案の定なかなか皆さん帰ってこない。

 そろそろ迎えに行こうか。

 そう思う頃、やっと皆さん集団で帰ってきた。

 案の定色々と戦利品を手にしている。


「何を買ったんだ?」

 全員乗った後、車を動かしながら尋ねる。

「私はアミュと2人分の飲み物と、パンを2個」

 シェラは無難路線。

「自販機の動きが面白くて、つい飲み物ばかり4本も買ってしまった」

 ジーナの気持ちはわからないでもない。


「本当は食堂も色々美味しそうだったけれどね。我慢して買い物だけにしたよ」

 助手席のマリエラはそう言ってアイテムボックスからちらりと袋を出してみせる。

「随分買った感じだな。参考までにどんな物を買ったんだ?」

「美味しそうなパンをいくつか。千葉土産と書かれた豆加工品のお菓子を2種類。この辺はアトラスティアに戻った時、商材の参考になると思って」

 千葉に家があるのに千葉土産は無いだろうと言いたい。

 でもまあ、皆さん本来の住まいは異世界だし仕方無いか。


「本当は美味しそうで我慢出来なかったんだろ」

「それもある」

 ジーナのツッコミをマリエラはあっさり認めた。

「でもそれだけ買ったらもう小遣い残り少ないだろ。まだ立ち寄る場所は何カ所かあるんだぞ」

「その辺はシェラにたかろうかな」

「おいおい」

 どこまで本気かよくわからない。


「少しくらいは前借りさせてやるから、たかるなよ」

「ありがとう、おじさん大好き!」

「お父さんはアミュの!」

「はいはい」

 何だかな。


「どんどん大きい建物が増えていく」

「ああ、都内に向かっているからな」

「ねえねえ、何かお城っぽいのが見える」

「あれはディ●ニーランドだな」

「あれアミュ行ってみたい」

「また次に行く機会があったらな」

「うん」

 アミュは相変わらず聞き分けがいいな。

 でも次に行く機会はあるのだろうか。


 ◇◇◇


 そんな感じでもう1箇所パーキングエリアに寄った後、本命のサービスエリアへ。

 広いフードコートへ皆を案内して宣言する。

「今日のお昼はここだ。いくつか店があるから自由に選んでくれ。テーブルは一緒で食べよう。あと今日お金を使う場所はここが最後だから、使い切っていいぞ」

 そこでブルーになる女子1名。


「あのー、もう一度、前借りをお願いして宜しいでしょうか」

「既に今日の分と明日の分を渡した。諦めろ」

「ええ、それじゃお昼が食べられない」

「そこのパン屋でパン1個くらいは買えるだろ」

 名物談合●あんぱん300円の文字をちらりと見ながらそう指摘。


「おじさんお願い! また帰ったら稼ぐから」

「その辺も色々教育上問題があるような気がするな」

 そう思いつつ仕方無いなと千円ほど渡す。

「今日はここでお金を使う場所は最後だから、これは使い切っていいぞ」


「おじさん甘い!」

 ジーナに指摘されるまでもなく甘いなとは思う。

 ただ折角の異世界旅行を楽しんでいるんだから、少しくらい甘くてもいいだろう。

「ついでに前借り分もチャラにしてやるから、反省だけはするように」

「はーい」

 マリエラは足取りも軽やかにお店の方へ。


 さて、私も選ぶとするか。

 いい加減歳だしすた丼はやめておこう。

 そんな事を思いながらさっと店を見てみる。

 うん、貧乏暮らしにおなじみの某牛丼チェーン店があった。

 早いし安いし私はあれでいいか。

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