第16話16
教室では相変わらずだった。骸骨(がいこつ)になった波田(はた)さんが授業を受けていた。そして、それに最初に気づいた先生たちも最初は驚いて、波田(はた)に何回か問いただした。しかし、ある女子教師が波田(はた)さんにダイエットのしすぎは体に毒よ、といいだして、いつの間にかこの事はダイエットのしすぎになってしまった。
腐れ教師、こんな事がダイエットの訳ではないだろう。こんなの中学生にもわかる。
しかし、なぜか、この事にほかの教師も疑問を覚えなかった。少しでも、社会や女性のことをわかっていたらこんな事は起こりえないことだ。
女性というのは大半の人はやせよう、やせようと思っていても太る物なのだ。ダイエットに熱心な興味を持つにはそれだけやせれていないということだ。中には神経質になってがりがりにやせる人がいるが、波田(はた)さんがそんな人ではないことは教師がわかっているだろう。5月までは本当にふくよかな体をしていたのだから。それに二ヶ月でこんなにやせるなんて聞いたことがない。そして、それはダイエットではなくてただ食べていないだけだろう。
食べないと言うことは明らかに問題だ。それは人の、動物の生存に関わる基本的なことで重要なことなのだから。
そして、それでいてこの件の不可解なところは波田(はた)さんにいくらか注意してこれで終わったことにある。
もし、ダイエットが原因でこのようなことが起こったとしたら、起こったと考えるのなら、明らかに2ヶ月間で体重を激減させるダイエットは危険な行為だろう。教師はいじめではないが、これはこれで問題のある行動だ。それならば、教師は波田(はた)さんに食育指導を行わないといけないのに、まるでこう言うことを行った形跡はないのだ。このダイエットを放っておくことは教師として明らかな職業的怠慢だ。
ということは…………。
ということは考えたくないことなのだが、教師はいじめの事実を知っていて見て見ぬふりをした、ということも考えられる。
しかし、先に考えたくないといった物の、ぼくはそのことが植木に巻かれた水のように簡単にこの考えに浸透してしまった。それほど、ぼくにとって、僕たちにとって先生は信用できない物なのだ。
最初はみんなも、村田たちもこれはばれるんではないかと思ってひやひやしながら見ていたが、女性教師の一言でまた安心していじめに励んで(はげんで)いた。
日中。ぼくは中庭で昼ご飯を食べ、それを終えるとぶらぶらとグラウンドを散策してから教室に戻ろうとした。教室には彼らがいるから。だから、昼休みはぎりぎりまで粘るつもりだったが、それがいけなかった。
ぼくがグラウンド出歩いていると先生に次の授業に使うのでボールを取ってこいと言われ、倉庫に向かうことになった。
倉庫はグラウンドの東側にあるのだ。それを取りに行った。
だるいなぁ、と思っても、まあ暇がつぶせるのならいいか、と思ってそこに行った。
それで倉庫に入り、チョークを取って帰ろうとしたら何か声が聞こえた。入るときにもなにか音がしたが、ただの風かなと思ったが倉庫から出てみて、それが何かの音だと気づいた。
それは倉庫裏から聞こえてきたのだが、なにも考えずにそこに行った。
行ってみると村田たちが波田(はた)さんをいじめていた。これは前にもこう言うのがあった。普通に注意力を研ぎ澄ませればこう言うのはわかるはずなのに、僕はそれができなかった。なにも考えずにふらふら歩くことが僕にはたびたびあるのだ。今日ほどそのことを呪ったことはない。
そして、僕は固まってしまった。さっさと逃げればいいのだけど、僕はびっくりしてその場から動けなくなったのだ。
「何だよ、笹原じゃねーか。何の用だよ」
まず金田君が絡んできた。金田君の言葉にぼくは一気に冷たい汗が噴き出た。
どうしよう、逃げなければ。
そうは思っても足が動かなかった。波田(はた)さんはうずくまっている。何か、うずくまっているにしても前とは様子が違った。前は少しは動いていたが、今はまるで死人のように動いていなかった。
「何だ、笹原、おまえも波田(はた)の仲間に加わりたいのか?」
波田(はた)さんをいじめている男子が言った。そう言うとみんなが爆笑した。
やばい、早く逃げなければ。
そう思っても何かからだが言うことを聞かなかった。ここで逃げるとまずいと体が危険信号を発しているのだ。しかし、ここに居続けてもまずいと頭がしきりに言っている。
「はは、いやいや、浅田違うよ。笹原はな、そんなことのために来たんじゃないよ」
浅田の意見に金田が異論を唱えた。
どういうことだ?金田がこんなことを言うなんて。
ぼくは金田を見つめた。金田はずる賢そうな蠅(はえ)の目をしていた。糞尿(ふんにょう)にたかる蠅(はえ)の目を。
「笹原はな。こいつとやりたくてここに来たんだよ」
そう言って金田君は波田(はた)さんを蹴った。そしてそれに村田たちが大騒ぎをした。
「ええー!マジー!こんなやつとやりたいの!マジ、笹原変わってるー!」
金村さんがゲラゲラ笑いながら黄色い声で言った。ぼくも頭が真っ白になった。どうしよう。このままだとやらされる。
それで金田達が波田(はた)さんを立たせた。そして、波田(はた)さんをぼくの前に移動させた。
波田(はた)さんの目を僕は見た。その目にも底なし沼の暗闇の目を。
「ほら、骸骨(がいこつ)、おまえの秘密をご開帳だ」
そう言って金田君は波田(はた)さんのスカートをつかみ指を入れた。
「ま、まさか!」
ぼくは金田君が何をやろうとしてるのか想像がついた。
「ほらよ!」
金田君がスカートを思いっきり下に下ろした。下着もろとも。そして僕はそれを見た。
波田(はた)さんの下半身を。それは女性の足と腰(こし)と言うには激しく抵抗を覚える物だった。ひからびた褐色(かっしょく)の肌、外部から見てもはっきりわかる骨、むしろ骨に皮が張り付いたと言っても過言ではない。足も骨だったし、腰(こし)は骨盤(こつばん)がはっきり見て取れるほど、骨しかなかった。まさに。
骸骨(がいこつ)。
ぼくは気づけば一新に叫びながら逃げていた。金田達が爆笑していたような気を覚えながら。
下駄箱にまで全力疾走で逃げてきた。
はぁはぁ、ここまで逃げたらもういいだろう。
ぼくは逃げて、一息をついて、それで靴(くつ)を履き(はき)替え、教室に戻ろうとした。
あれはおかしい。
ぼくの頭ではそのことで頭がいっぱいだった。波田(はた)さんをあそこまで苦しめる事なんて、人としてやっていいことではない。彼らは本当に人間か?いやそうとは思えない。あそこまで、あんな姿に………………。
そう思ってぼくは身震い(みぶるい)をした。波田(はた)さんの裸足は人の物ではなかった。あんな事考えただけで恐ろしい。
そんなことを考えながらぼくは教室までやってきた。ひとまず、ここに帰ってこれた。とりあえずよかった。
そうしてぼくは自分の席に移動した。席に着くと窓の外にコウモリが飛んでいた。
ぎょっとして窓の外を見たがそんなものはどこにもいなかった。
今のは何だったんだ?
そんなことを考えながらぼくは席に着いたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます