地球を救え、ぼくのスーパー磁石

あきちか

第1章 磁石の力くらべ

 今日は夏休み最後の登校日。

 陽太は自慢のU型磁石を小学校に持って行った。お小遣いをコツコツ貯金して買った大切な磁石だ。

 チャイムが鳴ると、6年2組の担任、留美子先生が教室に入ってきた。

 ホーム・ルームが始まる。

 挨拶が終わりみんなが席に着く。みんなといっても田舎の学校なのでクラスの生徒は二十人ほどしかいない。

「みなさんの夢はなんですか?」

 留美子先生はいきなり訊いてきた。

「陽太くんの夢はなんですか?」

 ふいにきかれる。

「ぼ、ぼくは発明家になりたいです」

 あがりしょうの陽太は、顔をまっ赤にした。

「すごいわ、陽太くんは、夏の自由研究を何にしたの?」

 先生がにっこり笑う。 

「ぼくは磁石の研究です。おこずかいを貯めて買いました」

 陽太は大きなU型磁石を、リュックからとりだした。

「強そうな磁石ね!」

 なかよしの綾子だった。

 綾子は、長い髪をプリンセスみたいに編み込み、ハートの花がらワンピースを着ている。すごくかわいい。

「どんな磁石より強力なんだ」

 陽太はみんなの前で、持ってきた消しゴムサイズの鉄板に、じまんの磁石を近づけた。

 ガチッ

 鉄板が力強い音をたてて吸着した。

「わっ、すごい!」

 教室に、みんなの声がひびく。

「陽太くん、磁石の研究がんばって下さいね」

 留美子先生が、にっこり微笑んだ。

「はは、フェライトだ! しょぼすぎ!」

 大輔くんが大声で笑った。

 転校してきたときから、大輔くんはなにかにつけて、陽太にからむ。

「な、なんだよ」

 陽太は、たちまち、いやな気分になった。

「おれのネオジム磁石のほうが強いぜ」

 大輔くんは、グリーンのカバンから、銀色のキューブ型磁石をとりだして、自慢げに見せた。

「どっちが最強か、磁石のパワー比べしろよ」

 優吉くんが陽太と大輔をあおる。

「陽太くん、がんばって」

 綾子が、手をたたいて応援する。

「う、うん」

 陽太は気のすすまない返事をした。

「それでは、せっかくなので、二人に磁石の実験をしてもらいましょう」

 留美子先生も胸の前で手を組んで、ぼくらをみまもる。

「この鉄球を先に吸着した方が勝ちだ」

 大輔くんがポケットから、十円玉サイズの鉄球をとりだして、机の上に置いた。

「ぼくが審判する」

 優吉くんが、三十センチの定規を出して、定規のちょうど真ん中あたりに鉄球を置いた。

 陽太とだいすけは、定規の両端にわかれ、向きあった。

「スタート!」

 優吉くんが鉄球から指をはなした。

 一センチ、二センチと、陽太とだいすけは磁石をおしながら鉄球に近づいていく。

 ガチッ

 先にだいすけの磁石から、鉄球の弾ける音がした。あっという間の出来事だった。

「すごいわ!」

 綾子の瞳が輝いた。

「ふふん」

 大輔くんは鼻で陽太を笑った。

「ネオジム磁石、すっげー、パワー」

 優吉くんが、大げさに騒ぐ。

 クラスのみんなが、ネオジム磁石を一目みようと、大輔くんを取り囲んだ。

 陽太は、がっかり肩を落とし、ポケットの奥深くに磁石をおしこんだ。

(ネオジムより強力な磁石がほしいなあぁ)

 夏休みでたった一日の出校日だというのに、陽太は夏休みの全てが台無しになったようないやな気分になった。

「はい、みんな、すわりなさい」

 留美子先生が、パンパン、と手を叩いた。

 みんな慌てて、席につく。

「今日は、陽太くんと大輔くんのおかげで、磁石の実験をみることができました」

 持ち上げられても、陽太の気持ちは、まったく晴れない。

「たしかにネオジム磁石は強い磁石です。ですが、フェライト磁石がダメということではありません。ホワイトボードのマグネットや、マグネットシートなど、フェライト磁石は、ほどよい磁力だからこそ、身近なところで沢山使われているのです」

 先生のうまいまとめかたに、大輔くんがくやしそうな顔をする。

「みなさんも、お家に帰ったら、どんなところにフェライト磁石とネオジム磁石が使われているのか、調べてみて下さいね」

 はーい

 クラス中にわれるような声が響いた。

 こうして夏休みでたった一日の登校日は終わった。

「陽太くん、まって!」

 帰りがけ、後ろからリュックをいきなり引っ張られた。

「綾子ちゃん」

「まだ磁石のこと気にしてるの?」

「べつに」

「顔に『がっかり』って書いてあるよ」

 綾子は、ちゃめっ気たっぷりの笑顔をみせた。

「そんな、うそだい」

 陽太は、白い半袖のはしをひっぱり、あわてて顔をふく。

「大輔くん、家の人にねだって、買ってもらったんだわ」

「そっかな」

「そうに決まってるわ。ネオジム磁石は、都会のデパートか、ネットでしか買えないよ。あたしたちの小さな町の文具屋で、見たことないもん」

「夏休みの自由研究、最強磁石って決めたから、みんなをあっと言わせたかったのに」

 陽太は、肩をおとし深いため息をついた。

「がっかりしすぎ!」

「気にしてないよ」

「いじっぱり」

「そんなんじゃないよ」

 陽太はもうどうでもいいと、空を見あげた。

 青空をハサミで丸く切り取ったような、大きな入道雲が目にとびこんできた。

「夏休み、まだ長いから、ネットで最強磁石さがしてみたら?」

「でも、ネオジムより強い磁石なんて、あるわけないよ」

「探してみないと、わからないよ」

 綾子は自分のことのようにむきになる。

「そ、そうだね!」

 陽太は、綾子のはげましで、チョッピリ元気をとりもどした。

 青々と波打つ田んぼのあぜ道を、二人は、もくもくと歩く。真夏の太陽が降り注ぎ、小川がキラキラと耀いていた。

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