神秘解き明かされ神と人は死せり【詩集】

遊座

神秘解き明かされ神と人は死せり



 ……古い古い書付かきつけにこうあった。



 私たちにも守護者たる神がいた。


 でももう死んだ。


 私たちが殺してしまった。


 私たちはあらゆるものを細かく切り刻んで、分析して、その命を奪っていった。


 私たちを温める炎は、ただの可燃物と酸素の燃焼現象。


 柔らかな風は、ただの気圧差による空気の移動。


 すべての命をはぐくむ太陽は、ただの核融合を起こしている恒星こうせい


 美しい月は、ただの太陽の光を反射するこの星の衛星えいせい


 肉体もただの物質の集まりにすぎず、魂なんて存在しない。


 もちろん死後の世界なんてありえない。


 そして神なんて存在しない。


 こうやって私たちは神の力の源たる信仰心を失っていった。


 虚無きょむが神から力を奪っていった。


 目に見える恩寵おんちょうがあれば、話は違っていただろう。


 しかしきっと神は私たちが自らの力で進化し、発展することを見守っておられたのだ。


 困難にった時、神の力によって乗り切れるのならば、そこで私たちの進歩は終わる。


 神はそれを恐れたのだ。


 私たちがその可能性の全てを開花させることを望んだのだ。


 それが自らの死につながりかねないと知っていても。


 そしてあの女神が現れた。


 私たちの神は立ち向かったが、殺された。


 私たちが信じなかったから、殺された。


 私たちが、殺した。


 そして世界は一変した。


 死んだ神は時を経て生まれ変わるという。


 きっと私たちは生まれ変わった神に会った瞬間、わかるはずだ。


 これを読んだ者よ。


 私の産声うぶごえをあげたばかりの信仰心を持っていけ。


 そして生まれ変わった神に捧げてくれ。



 ……と。


 女は小さく息をついた。


 信仰心を失ってしまった私たちのために戦った神はどんな気持ちだったのだろう。


 きっと、それでも最後まで私たちのことを愛してくれていたのだろう。


 神に片想いをさせるなんて、なんて私たちは罪深かったのだろう。


 だから今その罰を受けている。


 私達が神を殺して得た力のどれもが通じない。


 奴らの欲望はそのまま異形の女神への信仰心となり、それを叶える恩寵として欲望そのものが顕れ、奴らの肉体となる。


 女はそっと教会の長椅子から立ち上がる。


 崩れた天井からは青空がのぞき、落ちた床の隙間からは若木が伸びている。


 カバンの中味は使い古した野営の道具と、古びた書付。


 そして今、拾ったばかりの信仰心。


 目的の無い旅に目的が出来た。


 行先は依然わからないけど。


 とにかく歩こう。


 生まれ変わって誰かとなった神様を探しに。


 彼の心を手向たむけに。



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