2散 それは忌むべきとも、忌むべからずとも

 けたたましい警告音とチカチカ点滅していたモニターが落ち着いた頃。

 一瞬、視界が暗くなった。


 視覚センサーが復帰すると、状態が表示された。少し身長が高くなったらしい。真っ黒な視界の右端に「かんたんふ」のマークが点滅している。

 注視して選択すると、告知が展開された。視覚映像は、まぶたを開く事で得られるらしい。今まで必要のなかったくだらない行動を追加する事が、進化なのかな?


 瞼を開けた時、薄暗い縦穴のすみもたれ掛かっていた。周囲は茶色つちの壁しかなく、頭上高くに穴の出口と青い何かそら、そして白いくもがある。

 静か、と思う。ホームにいたのに、ここはどこだろう。あれ?


「何で経過が見られないの?」


『進化は完了しています。他の行動を選択してください。』


 俺の前には、4つの選択肢が表示された。

 探索、開発、廃材場、ホームの改造。探索を注視すると、短い警告音が鳴った。


――――――――――――――――――――――――

           警告


 再戦闘ではありません。武器を携行してください。


――――――――――――――――――――――――


 廃散弾砲は?


『進化に伴い、副砲および駆動部は自己進化を選択しました。以降、状況に応じて進化します。』


 え? せっかく製造したのに。


『武器等は全て保管されています。主砲を選択してください。』


 表示された選択肢が2つしかなかった。手と足……武器、なのかな? 手で良いか。


『主砲を副砲に統合します。』


 機械音声と同時に、副砲りょううでが膨れ上がった。痛みは無いが、ギョリギョリという金属がすれるような音が不快だ。

 収縮が始まり、しばらく待つ。黒い外見はそのままで、先端つめが仄かに赤くなった。

 何が変わったの? アームが少し重くなったけど。


『対象の方向へ放射状に力炉を解放します。使用される廃材は10万です。計画的に使用してください。』


 10万……潤沢にあったよね?


『残弾 2 です。硬い劣化球かせいおよび巨大球もくせいから廃材を回収し、弾丸を形成できます。弾丸の最大保持数は 2 です。ご注意ください。』


 廃材の心配は要らないかな。これから、どうすれば?


『自由に探索し、廃材の群れを捕捉してください。』


 自由に、と言われても……。とりあえず頭上の青い何かに近づいてみるかな。

 駆動部の使い方は、目標を決めれば逐一いちいち考えなくても動いてくれるらしい。

 近くに何があるか、すら見えないな。


『前方に廃材の分布を確認。捕捉してください。』


「目標は、捕捉か。この穴を出れば良いのかな。」


 縦穴の壁を蹴り、どんどん登っていく。視界の揺れが大きいけれど、青い何かに近づいて——

——勢いよく縦穴から飛び出した。


 視界が一面青色になり、白いくももいくつか見える。副砲うでを前に出してみるが、離れているようだ。

 じっと煙を見ていると、駆動部あしに衝撃が伝わってきた。あぁ、これが重力というモノか。下には茶色の大地が広がっている。見渡す限り何も無い……ん?


『廃材を捕捉しました。データを収集します。』


―――なんだ! ―――――なんかでてきたぞ! ―――ほうこくだ!」

「何をしているのかな? こっちに肌色うでを向けて。」


『N1と同言語のようです。翻訳します。』


動かなければ攻撃しないなんだ? じっとしてるぞ?。」

「攻撃? N1は、こうなの?」


『武器による威嚇を確認。排除しますか?』


「そうか、再戦闘のN1とは違うんだね。良いよ。」

「ぎゃあああああ!」


 不思議な鳴き声だね、N1って。白いブカブカの変なのうちゅうふくを着ていたけれど、なんでだろ?


『資源を 4 回収しました。付近に廃材を確認できません。探索を続行してください。』


 資源? あの白いのが資源なのかな。高い所から見たら何か見つかる? と、提案すると駆動部が動き、空中へ跳躍した。

 周囲を見回すが、特に何もない。重力って不思議だね、戻ってきちゃう。移動も兼ねて、飛びながら移動してみよう。飛ぶたびに白い煙に近づくのは面白いなぁ。


 白い煙を見ていると形が変わっていくので見飽きない。

 上ばかり見てたからか着地時、大きな塊がいへきにぶつかったけれど、かべの方が弾け飛んだ……脆い塊だなぁ。






 急に狭い所へ着地したらしい。灰色の通路が奥まで続いている。後ろに2つ、前に4つ、そして真横に1つの廃材があるじっけんどうぶつがいる

 近いまよこのN1を見ていると、震えているようだ。大部分かみのけ黄色ぶろんどなのにN1なんだね。突然変異かな?

 ジロジロ見ていると、他の廃材が動き始めた。


近づくなお、おい! 近づいたら撃つぞかべがこわれたぞ?! そこの黒い奴あのく、ろいのはなんだ!」


『多数の廃材を確認しました。捕捉してください。』


「ん? なんかノイズがじっていて聞き取れなかった。N1がたくさんいる?」

完全に包囲されているぞこっちをみてるぞ! 頭の高さに両手を上げ、ひざまずけじゅうみんのひなんをいそげー!」


『補足しました。データ収集を開始します。』


「みんなどこへ行くの? 向こうに他の廃材があるのかな。」

くそ、行かせるなさっきからキーキーうるさいやつだな! 胴体を狙えこれでもくらえ! 主砲用意なに はじかれたぞ!」


 N1の手元が光ると、力炉に何か当たる。出力に変わりなし。気になる単語が聞こえてきた。


『……条件設定。力炉を維持し、探索を続行します。』


「主砲?」


『主砲が選択されました。力炉解放を行います。体表面に防護膜形成……完了。駆動部を座標に固定……完了。力炉出力120%……140%……主砲装填、残弾 0 、衝撃に備えてください。』


「もう少し、見ていたい……かな。何をするのか気になるし。」


『中止が選択されました。駆動部の固定を解除および力炉冷却を開始します。』


 高まった出力数値が下がっていく。状態に異常なし。さっきの黄色のN1がボーっと、こちらを見ている? こういう時は、笑った方が良いのかな。


「……収まった、のか? 動きが止まっている今のうちに避難だ! 負傷者の回収も急げ!」


「あ、ああ……。」


「ん? こう? あぐあぐ。」


 笑顔を作った事が無いので、ガバっと口を開けてみた。黄色のN1がビクっとした。

 ……あれ? 笑顔じゃないのかな。周りの廃材まで騒ぎ出したので、口を閉じて観察してみる。


「おい、逃げろ! 食われるぞ!」

「ひっ、こっち見たぞ!?」

「ゆっくりだ、ゆっくり下がれ!」


 何を言っているか分からないけれど、再戦闘のN1のような反応だなぁ。


――――――――――――

*補足


 主人公は機械音声の翻訳した声のみ聞こえています。N1(黄色人種:人間)が騒いでも聞こえません。

 機械音声が翻訳をしていない時間に、何をするか。その扱いは、ペットのようで。

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