第6話  サブテクスト(一案)

 わたしは扉を知っている。

 現実と異世界を繋ぐ通路への扉。


 扉を開くのは容易いが、現実の倫理を持ったままだと

 向こうの世界秩序を壊してしまう。

 だから、生まれた状態へと初期化する。


 一人に逃げられた。

 彼女には恐怖を植えたつもりだが、克服して戻って来るかもしれない。

 この「扉」を知られるのはまずい。

 私は「扉」とともに消えなくてはならないが、周囲に察知されると不味い。誰にも悟られる事なく、消えるのだ。


 異世界は自立できるほどの人数で溢れている。

 彼らは子を産み、さらにその子供が数を増やしていくだろう。

 環境のコントロールも上手く機能している。


 私は逃げた女、シルヴィアを連れ戻す。

 三日。叶わなければ私が消える。そうなると思い残しが出来てしまうが、仕方がない。


※※※※※


 テューダは気づいた時、そこは物置の中だった。

 体中を走り回る痛みに耐え、外を伺うと、地平線まで続くトウモロコシ畑が広がっていた。彼女の傍らにはエスメラルダに似た少女がついている。テューダを逃がしたのは彼女だが、通ってきた通路に関しては「覚えていない」としか答えない、苦しげな表情で。


 彼女は銃を構えた男達に追われる事になる。

 自分がどうして、そんな目に遭うのか、わからない。

 この世界を知るほど、その謎は増すのだった。

 彼女には煙のヴェールがある。銃の弾をはじいてくれるが、それでも人の悪意がどこまでも追ってくる。人体に直接の影響はないが、薄い粒子の壁の向こう側で、テューダを狩るためのあらゆる行動が見える。

 それが、彼女の精神を少しづつ蝕んでゆく。

「人間の私に、そこまですることができるのか」と。


 最後の最後で街を出る時、エスメラルダも一緒に連れてくるべきだったと後悔した。もう、彼女は生きてはいないだろう、あの街は・・・・・・異常者の街だ。そして、あの街をこの手で葬らなければならない。



※※※※※


 養父に促されるまま、街を出た。

 車に乗ったところまでは覚えている。

 すぐにウトウトと眠気がやってきて、気づくと知らない部屋にいた。養父を探して部屋を探し回る。誰もいないし、書き置きもない。


 クローゼットにはたくさんの着替えが釣ってあり、

 食料も揃えてある。部屋の中の無音が彼女を圧迫し、急激に心細くなっていった。ここはどこ? エスメラルダは必死なって部屋中を探し回った。養父の名を叫びながら。


 木製の古びた机の上に書類ケースが置いてある。

 中を見ると、


 戸籍データの写し。

 聞いた事もない父と母の名前。

 卒業した覚えのないスクールの名前。

 聞いた事もない住所。


 驚愕していると、部屋をノックする音がエスメラルダの時を止めた。

 恐る恐る・・・・・・



「何かを叫んでるから気になって見に来た。

 何かあったのか? 」




「そんな状態で明日は大丈夫か?」

「明日って」

「ウチのパン屋で働く事になっているだろう! しっかりしてくれよ」


 養父の名前を出す


「知らないよ、









 男が去っていった後、彼女はドアの側で立ち尽くしていた。

 ここはどこで、何が起こっているんだ。

 エスメラルダは両手で両肩を掴んで、その場にくずおれた。



※※※※※

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