第148話 とあるダンジョンマスターの記憶

 ダンジョンを作り続けて早〇〇〇〇年…毎回いろんなやつらが挑みに来るがみんな似たり寄ったりでいいかげん退屈でしかたがない。かといってあまり難易度を上げすぎると脱落者続出で攻略されるまでにかなりの年月を必要とする。


 今回用意したダンジョンは超初心者用ダンジョンで、余程あれなかんじじゃないかぎりある程度実力があれば攻略できる簡単なものを作ってみた。まあそれでも多少は見てても楽しめる様には考えたつもりなんだが…どうやら逆に期待値が下がりすぎているのか数階確認すると誰もがその先の攻略をやめ、来なくなった。

 すでにここの利用者は1万人はいるのだがいまだに誰も最下層まで足を運んでくれなかった。


「うーん…失敗したか? これじゃあ新しいダンジョンを作れるようになるまで後何年かかるんだ…」


 ぼんやりと設置されているモニターを眺めながらそんな独り言も出てしまうくらい退屈をしている。まあもちろんまったく人がいないというわけではない。初心者冒険者などがたまにやってくることもある。

 まさに今その初挑戦に来た少女が1人ダンジョンに足を踏み入れたところだ。この少女も一体いつまでもつかわからないが…まあ少しは退屈しのぎになってくれるとありがたい。


 1階層はスライムしかいないマップだ。それでも種類が3種類いるので超初心者でも少しは歯ごたえを感じてくれるだろう。


「さて…この子はどんなことをするんだろうか」


 早速普通のスライムを遭遇したみたいだ。スライムと向き合い手に持っていた杖を構えた。魔法でも撃つのだろうか…? その杖を大きく振りかぶり少女はそのままスライムに殴りかかった。ものすごく振りが遅い。


「おいおい…初心者がいきなり杖で殴りかかるとか重いだけだろうが」


 その遅い振りは簡単にスライムに避けられてしまっている。何度も何度も必死に杖を振り回すがどう見ても当たりそうもない。段々少女の息が荒くなり疲れが出てき始める。

 先ほどから何度かスライムの酸をくらって装備も大分ぼろぼろになり始めている。まあ初心者用というように酸は装備は溶かすが人体にはそれほど影響がないので死ぬことはないだろうが、少しだけ肌がひりひりはする。それに体当たりを何度か受ければいずれ体力も削り取られてしまうだろう。


「こりゃ~まずいんでねぇの? いい加減引き上げろって…お前じゃ無理だっ」


 もちろんモニター越しに何か言っても言葉が届くわけではない。でも思わず言わずにはいられなかったのだ。

 少女の装備はズダボロで今にも色々見えてしまいそうだ。涙目になった少女はやっと諦めてダンジョンの外へと出て行った。

 中々はらはらする戦闘を久しぶりに俺は見たのだった。


 それから毎日少女は現れた。初日に酷い目に合ったせいなのかもう装備を諦めている。外套を着て現れ、ダンジョンに入るとそれをしまう。その下に来ているのはボロボロな装備だ。もしかするとお金がないのかもしれない。そのボロボロな装備も全然やくにたたないレベルで損傷しているし、もう下着とかわらない。


 それでも少女は諦めずスライムを殴り続ける。


 ある日とうとう装備が完全にだめになったしまったのか、外套の下は最初から下着姿だった。まさか俺が見ているとは思わないだろうからの強行だろうが…もしこれで誰かがやってきたらどうするつもりなんだろうかと疑問に思う。


 そして今日もまた杖を振り続ける。


 少女の根気に負けたのかある日スライムが少女の振った杖に当たり弾けとんだ。ただスライムを倒しただけなのに妙に感動してしまった。本人もとても晴れやかな顔をしている。それから時間をかけてスライムを数匹倒すととても誇らしげに少女は帰っていった。


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