第115話 結果

 あたりは静まり返っていた。自分の心臓の音だけがやけに響いて聞こえている。すでに魔法は落ちきり、俺はボスと向き合っている。ボスの体からは血の匂いと焼けている匂いがしている。口には出さないがどこと無く焼き魚みたいなにおいだとか思った。


 ゆっくりとボスが動く。どうやらまだ生きていたみたいだ。つまり俺達は生き残るためには逃げるしかなくなったわけで…


 魔力も体力もぼろぼろな俺はその体に鞭を打ち視線を外さないようにしながら後ずさる。


「…ん?」


 腕を伸ばしたかのように見えたボスはそのまま前へ倒れつつ消えていった。逃げようと思っていただけに俺は驚き完全に消えるまでそれを見つめていた。


「よっすーーー!」


 健太の元気な声が背後から聞こえてきた。次の瞬間どんっと背中に振動を受けたかと思うと健太が抱きついてきていた。


「やったぜーーーっ今回こそ無理かと思ったわ!」


 嬉しさのあまりだと思うが男に抱き疲れても嬉しくはないんだが…まあいいか。出口もないとこでのボス戦とかほんと簡便してほしいわ。これは後で文句いっていいよな、レイノアール?


「あーーーーーっ」

「な、なんだ?」

「ほらみてよ、宝箱!!」


 ミネが指差すほうを見ると5つの宝箱が並んでいた。ということは俺達はこれでパネルを見つければ出られるってことだ。それに気がつくと宝箱を開けるよりもみんなパネルを探し始めた。どこかにあるはずなんだ、出口が。


 するとまた足元に振動を感じてみんな動きが止まる。


「えっちょっと待ってよ! まだ出口見つかってないし、それに宝も回収してないよ!!」

「とりあえずみんな『フライト』だけかけろっ」


 宝箱は残念だが生き残れないと話しにならない。それをわかっているのでみんなすぐに『フライト』をかけていく。その直後水が流れ込んできた。みんなどうやら『フライト』が間に合ったらしく足元に溜まっていく水を眺めていた。


「宝箱、残念でしたね。」

「まあしかたないさ、別のところでまた手に入れよう」


 水に飲まれていく宝箱を眺めていると、段々その水量が上がってきた。前回水が入ってきたときは通路の半分くらいだったのが今度はそうじゃなかったらしい。


「ちょっ…このままだと俺達まきこまれんじゃね?!」


 すぐ足元まで水がき始めている。上へ逃げる俺達を追いかけて水かさが増す。天井に追い詰められた俺達は結局逃げ場を失い、ついには水の中に入ってしまった。幸いまだミネの魔法効果が切れていなかったので呼吸が出来ていることと、今回は水に流れが無かったのが幸いした。ただ海の中で歩いていたときと同じ感じなだけだった。でもいつまでもこの状態でいるわけにも行かないし、このままだとも思えない。ほらね…ゆっくりと水が流れ始めてきた。


 俺達はお互い顔を見合ったが首を横に振るだけだった。どうしていいかわからないうえに会話も成立しない。折角ボスを倒したと言うのに俺達は再び水に流されるまま身を任せることになってしまった。

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