解放の英雄(8)
軍の防衛ラインを破壊しようと
ゼムナ軍が参戦しても変わらず、正々堂々と戦っている。まるで、そうすることで自らの解放への欲求が証明されるかのように。
(今んところ特に妙な動きはないときたね。それだと軌道上の迂回戦術警戒艦隊も降下してくるな)
ウルリッカを直撃する迂回部隊の存在を警戒して配置していた艦隊が不要であると判断されれば連携する手筈になっている。
(ま、あちらさんも当然把握してるだろうし、警戒の目は向けてるはず)
エフィはそれほど敵軍を嘗めていない。
王制府が何と主張しようとエフィ・チャンボローはエルシと名乗った存在が間違いなくゼムナの遺志だと信じている。ゼフォーン派遣軍所属時代から、
(あのとびきりの美女の神々しさも納得できるしさ)
むしろ人間ではないと分かって悲しんだほどだ。
(そんなの相手に情報戦をしたって無駄でしかないね。分かってれば最初から全軍をもって叩きに行かなきゃなんなかったっていうのに、見下していた四家の平和ボケ当主たちはこんな戦況になるまで座視してしまったんだからな)
それなのに軍本部はまだ悠長にしている。
(おかしな話もしていたし。連中が崩れるときが来るとか。ちょっと考えられないね)
将軍ダイナと剣王を中心に結束は固い。
エフィはその剣王を倒せと言われている。遠回しに無理であると伝えたが聞き入れてもらえなかった。隙ができるからそこを突けと命じられている。
確かにレデストロは良い機体だと思う。彼に合わせて調整されると、その能力を如何なく発揮していると感じる。重厚さはないが極めて鋭敏なアームドスキンだと思った。それでも剣王の新型に対するには心許ない。
「っと、のんびり考え事している暇も与えてもらえないか」
砲戦が始まり、薄紫の光芒が交差している。
「戦死なんてしたら、僕を待っているかわい娘ちゃんたちに申し訳立たないしさ!」
持ち上げた砲口から重金属イオンの奔流をほとばしらせる。
ここで敵アームドスキン部隊を攪乱し進攻を阻止する。抜けた敵機には戦闘艦や軍用クラフターの装備する拡散ビーム砲塔の網が待っているのだ。
「そこの見慣れねえ派手な奴! そいつは俺様に対する挑戦と受け取っていいのかよ!」
共用回線に怒声が響くと同時に銀線が尾を引いて迫ってきた。
「君みたいなタイプには効果てきめんだね」
「ああ? その声、あの伊達男か! ……何? レデストロ? 協定機だって?」
「あれま。お見通しか」
搭乗機の正体はすぐに割れてしまったらしい。
当然だろう。有名な機体だと聞いたし、どこの軍でもアルミナのアームドスキンとして登録されているはずだ。ただし、技術転用はされても実用されたのは数十年ぶりだと言われたが。
「そいつに乗れば五分に戦えるとか思ってんじゃねえだろうな? ああ!?」
少年が威嚇してくる。剣王の常套手段だ。
「僕自身は思ってないから心配しないでくれないかな?」
「抜かしてんじゃねえよ! てめぇは戦場で死にたがるような奴じゃねえ! 目算があるから出てきたに決まってる!」
「そりゃもちろん死にたくなんかないさ。だから全力で相手させてもらうって」
空間を刻む斬線から身を躱す。レデストロのセンシティブな操縦系は一瞬で50m近く飛び退かせていた。
「避けんなよ」
「無理言わないでくれ、銀色くん。痛いのは苦手なんだからさ」
「心配すんな。痛いって感じる暇がねえくらい一瞬で刻んでやる」
そう言われて静かに待つ馬鹿はいない。
ペダルを強めに踏むと200m以上も一気に後退する。両手に大剣型のブレードを構えたゼビアルは青いカメラアイをゆっくりと振り向けてくる。
刹那、大地に深い足跡を記した剣王は300m近い距離を詰めてくる。同じ協定機でも大戦時の物と現行機では性能に開きはあるようだ。
「勘弁してほしいね」
エフィは独り言ちる。
「悪ぃが勘弁してやらねえ」
「君だって女の子を泣かせる趣味はないんじゃないかな?」
「てめぇが刻まれると泣く女が居るのか? 浮気者と手が切れて清々すんじゃねえの?」
一番痛いところを突いてくる。彼は「それは酷すぎるんじゃないの!」と言いつつ斬線を撥ね上げた。
リューン・バレルという男の怖ろしさは彼の予想を上回る。エフィの要求に機敏に反応して振られたビームカノンの砲口の先にはゼビアルはいない。オートターゲットのナビに従って無意識に射線をずらしても捉え切れない。反射的にトリガーを落とした時には新たな位置で斬撃のバックスイングに入っている。
大地を蹴り機体を跳ねさせて躱す。
(こんなのいつまで持つもんかね)
神経の磨り減る思いでエフィは集中を重ねる。
◇ ◇ ◇
「当該車輛、王都からの避難民だと訴えているようです」
僚艦からの報告を通信士が伝えてくる。これまでも避難民の列は時折り確認されていたので不思議ではない。ただ、果たして戦闘地域を突っ切ってくる必要があったのかと問われれば疑問視せざるを得ない。
「流れ弾で燃料電池を破損してこれ以上の走行は無理だと」
「仕方ない。陸戦隊を降ろして保護しなさい」
不審だとは思うが、緊急性の高い保護要請をオルテシオ艦長も無視はできなかった。
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