血の意味(9)

(……!)

 フィーナは息を飲む。


 ゼビアルに拡散ビームが浴びせられる。リューンは直撃するものだけ斬り裂き躱すなりして一度離脱した。

 その様子が彼女のコンソールの2D投映パネルに望遠で映し出されている。自動追尾なので素早い動きに対応はできないが、ロストはせずに捕らえ続けてくれていた。


「何なの、あれ!」

 一瞬心臓が跳ね上がった。

「大戦中に使用されたレギュームっていうビーム兵器ね」

「こんなものがあったんですか?」

 エルシが情報検索してフィーナのコンソールにも新規パネルを立ち上げてくれた。

「戦後は実戦での使用歴がほぼ無いと言っていいわね。だからデータも少ないのよ」

「大丈夫ですか、お兄ちゃん」

「何とも言えないかしら」


 フィーナは周囲の状況をデータリンクでナビゲーションしつつ尋ねる。無駄に動揺すればそれだけリューンは窮地に追い込まれてしまうのだ。


「でも、彼はこの程度で折れたりしなくてよ」

 エルシは自身の協定者を信頼しているようだ。

「ですよね。でも援護要請だけはしておきます」

「ええ、横槍が入るのは避けたいものね」


(頑張って)


 彼女は下唇を噛んでオペレータに徹する。


   ◇      ◇      ◇


(不用意に間合いには入らないように言われてしまった)

 イムニはクリスティンにそう命じられている。さすがの彼も同士討ちフレンドリーファイアに注意を払う余裕はないそうだ。

(ならば、この対決の邪魔はさせない)

 少し離れて敵機に牽制射撃をくわえる。できることは少ない。


 銀色の機体はビームを斬り、或いは避け続けている。しかし、これまでと比べれば余裕のある対処ではないように見える。


(反射神経だけでやっているな。それもあのゼビアルとかいう新型だからできているようなものだ。前の機体だったらもう撃破されているだろう)

 器用に躍動するアームドスキンは紙一重でビームを避ける。

(あれでは長くは持たない。時間の問題だな)

 上官の勝利を確信する。


 既に装甲表面のビームコートは相当蒸散していると思われる。それだけ至近弾を受けていた。装甲表面も過熱しているかもしれない。

 それだけ無理をしていてもリューンが得意とするブレードの間合いには入り込めていない。今の一対一の距離を維持するので手一杯なのだろう。じきに被弾するのは間違いない。


(おっと、貴様には遠慮してもらおうか)


 少年が以前搭乗していたパシュランが接近してきた。現在は敵将ダイナが乗っているはずだ。接近させるべきではないが、あからさまな牽制で押し戻せる敵ではない。


 イムニは彼のオルドバンを前進させた。


   ◇      ◇      ◇


「もう限界だろう? 投降したまえ」

 クリスティンが勧めてくる。

「だーれがしてやるかよ!」

「その強情は命を縮めるだけだぞ?」


 今のリューンは反射だけで拡散ビームにフォトンブレードを合わせ、機体を逸らせている。アームドスキンの操縦の限界を超えているといえるようなゼビアルとのマッチングだけで被弾を免れているようなものだ。


(やってくれる。使われる側になると拡散ビームは本当に厄介だぜ)


 戦気眼せんきがんに輝線は感じる。しかし、それは中心射線であって、拡散ビーム砲の射角のどこへ放たれるかまでは示してくれない。目で見て反応するしかないのだ。

 一基相手なら何とでもなりそうに思う。だが、四基ともなると死角に入られないような位置取りを続けなくては確実に直撃を受ける。結果として全く間合いを詰められないでいた。


(やってくれんじゃねえか)

 この状況は投降勧告の一つもしたくなるだろう。


 機動砲だけを相手取っているのでは埒が明かない。拡散ビームには拡散ビームといわんばかりに、ヒップカノンをエクセリオンに向けて拡散モードで放つ。が、二基のレギュームが機体の前に入り込んで受け拡散させられた。閉塞磁場は防御磁場としても働くのだ。


「まったく! 厄介なことこの上ねえぜ!」

 舌打ちとともに吐き出す。

「これは詰んでいるのではないかね。そろそろ諦めてはどうだ?」

「冗談じゃねえっつーんだ。俺を止めたきゃコクピットを狙え。そうじゃなきゃ止まんねえぞ」

「情熱だけで何もかも越えられると思うな。それは君の若さゆえの勘違いだと言っておこう」

 余裕からか説教までしてくる始末。

「好きにさせっかよ!」

「ならば戦闘不能にするまで!」


 一基のレギュームが正面に位置取る。リューンは射角からゼビアルを逃がす。待ち受けていたように横合いにもう一基。機体を跳ね上げると同時に直撃弾を斬る。

 バックウインドウに一基が口を開いているのが見えた。背面飛びの要領で捻って射角から逃れる。急接近して本体へと斬撃を放とうとする。しかし、そこにはまた横に新たな一基が待ち構えていた。

 至近距離で放たれた拡散ビームのうち、直撃コースを右の大剣で薙いだ。だが、左手は小剣のブレードグリップごと貫かれ破壊された。


「くっ! んおおぉー!」

 爪をスライドさせて左手にもフォトンブレードを展開させる。

「いっけぇー!」

 斬り裂こうにも横合いのレギュームはパルスジェットを噴かして後退していた。

「おらあぁー!」

 気合い一閃、左手を突き出した。


 リューンの気迫に呼応するように爪が出力を上げる。彼の意思通りに力場は伸張し、ついには本体を貫いた。


「なにぃ!」

「どうだー!」


 機動砲はビームチャンバーを貫かれて爆散した。

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