戦気眼VS戦気眼(2)

 日を改めて戦艦ベゼルドラナンの艦橋では、将軍ダイナ・デズンを中心に主要なメンバーが顔を突き合わせている。リューンがカミングアウトしたところで急に戦力が増強されるわけではない。依然として厳しい状況であるのに変わりはない。


「悪ぃな。そっちはもう夜更けだろ?」

 2D投映パネル内のトルメア・アディド大統領へと話し掛ける。

「心遣いありがとう。でも、ミックも眠っているから好都合でしょう? 聞かせたくないような話でもできるわ」

「物騒なことを言うなよ」

「あの子は話したがってたんだけどね。君が英雄ライナックの血統だって教えたもの」

 リューンは失笑する。彼の正体は思ったより遥かに多くの人々に影響を与えてしまうようだ。

「仕方ねえ。そのうち良い時間に繋げてやるさ。それで、始末は付きそうか?」

「事実を公表できるなら国際社会に訴えるのは簡単よ。アルミナにゼムナ軍が付いたところで、ライナックという名だけで正当性を主張してゼフォーンに圧力を掛けることは不可能になったわ。せいぜい吹聴させてもらうから」


 ゼムナ軍、しかもライナックの真生の血統を担う人物が参戦してきたとあっては、周辺諸国が日和る可能性がある。アルミナの扇動に従い、再びゼフォーンを孤立に追い込もうという動きが起こるかもしれない。

 ところが、ゼフォーン側にもライナックが居るとなると話は変わる。英雄伝説の体現者が与するほうが正義だという主張は通らず、各国首脳部は現状維持で静観する構えになるだろう。

 むしろ、どちらに付けば国益になるか模索を始めるかもしれない。その辺りは論客であるトルメアのフィールドになるので任せておけばいい。リューンの存在を前面に押し立てる言質だけ与えておけば問題ないだろう。


「渡した材料は好きに使え。あんたなら最高の料理に仕上げるだろ」

 シニカルな笑みを送る。

「任せなさい。絶妙な一品に仕上げてあげる。けど、物理的な糧食補給は現状が限界よ。補給線をこれ以上太くするのは無理」

「そいつはこっちで考える。勢い任せでやってきたツケだからな」

「たぶん私よりエルシさんのほうが頼りになるでしょう」


 料理になぞらえて補給線にも話が及ぶ。

 現状、ブリッカス星系側の第5ジャンプグリッドまでの補給線は確保されているが、そこから侵攻艦隊までの補給線は輸送艦と警備艦の編成で繋げている。断ちにくるならここが狙い目だ。

 彼女としては多経路を用いて確実な補給を行いたいのが本音でも、復興に全力を傾ける本国にはその余力がないのを嘆いているのだ。


「どうにか算段するわ。幾つか案もあるし」

 ダークブロンドを掻き上げながらエルシが応じる。

「ゼフォーンのために命を懸けているあなた方にこれ以上の負担を強いるのは心苦しいの。無力なのが悔しくて仕方ないのよ」

「ありがたいが、そのくらいにしとけ。得意な分野でサポートしてくれりゃいい。今をチャンスだと思ったのは現場の判断だったじゃねえか」

「ごめんなさいね。私の意気だけ背負っていって」


 周囲が動じる。聡明堅実な政治家の顔を見るケースが多くなっただけ、リューンに見せる人情家の顔が違和感を覚えさせるのだろう。

 軽く宥めてから、休むよう告げて超空間フレニオン通信を切る。多忙なトルメアの貴重な睡眠時間をこれ以上奪えない。


「さて、現実的な戦術方針なんだが」

 改めてダイナが口火を切る。

「戦力的には比べようもない。動員していないだけでアルミナはまだ繰り出せるだろう。そのうえにゼムナ軍まで相手しなくてはいけない。これがまた厄介極まりない」

「これ、そんな絶望的な持っていきようをするもんでない」

 将軍の論調をオルテシオ艦長が諫める。

「ましてや負け戦の後じゃ。希望を与えんと兵は動けなくなるぞ?」

「そうですね。すみません。これを先に言うべきですよね。逆にいえば好機でもあると」

「好機、ですかい?」

 パイロットを代表してモルダイトが皆を煽るように言う。

「人類最強の呼び声高いゼムナ軍を、更に言えばライナックが司令官を務める軍を退けたとあれば、アルミナ軍兵士は及び腰になるのは間違いない」

「でも、簡単じゃないですよね」

「無論だ。それを考えなくてはならない」

 フレッデンは期待を込めて指揮官に注目する。


 ダイナは意見を募る。彼のスタイルも最近は様になってきたと思う。自信ありげに見せながら、皆が出し合った案からめぼしいものを拾い出して形にしていくのだ。いうなれば纏め役を自らに任じている。


「ゼムナ軍司令官への対応だが……」

 最も難題と思える部分に差し掛かる。

「あれはお前らにゃ無理だ。俺が何とかする」

「だろうね」

「射撃のできる俺だと思え。まともにかち合えば命がねえぞ」

 具体例を示す。

「そんなに卑下するもんじゃないさね。あんただってバルカンでばら撒けばたまには当たるじゃないさ」

「誰が射撃が下手くそだって言った? イメージの話だっつったんだ!」

「おや、そうだったのかい」

 アルタミラが掻き混ぜて空気を軽くする。皆からも笑いがこぼれた。

「とにかく、来たら逃げろとしか言えねえ」

「俺もそれしかないと思う。あとは、あの狙撃部隊だ。あれも難しい敵になる」


 それほど多くはない部隊だったが、混戦の隙間を縫うように狙撃されるのはダメージは大きい。しかもカノンインターバルが通常のビームカノン並みに短く、一撃を躱せば隙ができるわけではなかった。


「連中も俺が斬り込めば脆いタイプなんだけどよ、生憎身体は一つしかねえ」

「そっちは私に対応策があるわ」

 エルシが発言する。

「少し時間をちょうだい」

「お願いします、女史」


 信頼感が違う彼女に、ダイナは素直に頭を下げた。

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