伝説の到来(9)

(厄介そうなのがいるじゃねえか)

 リューンは片方の口の端を上げて笑う。

(どうしてこうも嫌な予感ってやつは当たっちまうんだ? こいつはちっと気ぃ入れて掛からねえとヤバいかもな)

 ただの自嘲だ。ガラントの言うように彼は戦闘狂ではない。


 水色のアームドスキンは鎧袖一触といわんばかりに友軍機を中破させていく。当然、爆炎に包まれる者も少なくない。それ以上損害が出ると潰走を始めそうだ。


「止まりやがれ!」

 進路にパシュランを滑り込ませ、ブレード同士を噛み合わせる。

「好き勝手してんじゃねえぞ」

「何だ、君は?」

「敵でもねえと思ってんなら、次の瞬間には命がねえぞ?」

 恫喝するように低めの声を出す。


 挑発だ。動き回られるよりは引きつけておいたほうが味方の立て直しの時間が稼げる。


「フィーナ、急がせろ」

「うん、分かった。頑張ってね」

 彼女ならリューンの意図はすぐに察してくれる。


 現状、敵の総数は二倍近く。このまま戦線の維持は難しい。損害が一定ラインを超えれば、もうブリッカス星系での活動は困難。ワームホールを挟んで泥沼の長期戦を覚悟せねばならない。


「認識出ますね。これがデータにあったパシュランのようです、閣下」

「あの『剣王』というわけだな、彼が」

 黄緑色の随伴機からの牽制砲撃と同時に共有回線での会話も聞こえる。

「ならば、ここで墜としておけば勝負は早いということか」

「言ってくれんじゃねえか」

「悪いが、やってみせねばならないんだ。でなければ、ここまで来た意味がないというもの」


 斬撃を弾き砲撃から機体を躱しつつ、二機の間に入り込むような機動をする。相手の射線に僚機を入れるようにして自由に撃たせない方法を採る。

 その間にもダイナが多くの編隊を率いて友軍機の離脱支援をしている。そちらは捗らないようだ。正確な狙撃が中破した味方を襲う。推力バランスの狂った機体は本来のスピードが出せない。


「あの機体、プネッペンでリューンを狙ったものじゃないか」

 教授プロフェッサーの策略で彼が窮地に陥った時に現れた不明機だとダイナが気付いた。

「ゼムナ軍の物だったっていうのか」

「狙いが正確。危険」

「接近してくる連中だって手強いよ!」

 ペルセイエンに続いてミントも部隊回線で指摘する。


 狙撃してくる敵機と接近戦を挑んでくる機体とでは機種が違う。それぞれの目的で開発された機体らしい。噂通り、ゼムナ軍の戦力の厚みは比較にならないようだ。


(こいつは本気でマズいな。どこまでやれる?)

 バルカンファランクスをばら撒くが、水色の敵のジェットシールドにさえ当たっていない。こちらの射線から巧みに逃げ続ける。

(この動き、そうだってのかよ。厳しいにもほどがあんだろ)

 黄緑の敵も回避力は高いが水色ほどではない。その遅れを利用して位置取りをキープする。


「もう終わりだぞ、リューン・バレル!」

 そこへ頭部の復活したローディカまでもが加わる。

「あんたもか、ガラント」

「今すぐ王子殿下をお返しすると約束して退け。そうすれば私が閣下に見逃してくださるようお願いしてやる」

「はっ、返せばどうなるか分かってんじゃねえのか?」


 彼の予想が正しければエムストリはまた戦場にやってくる。どれだけ心細かろうが、アルミナ軍の旗頭として立たねばならないのだ。そうしなければ格が合わない。この水色の敵機のパイロットとは。


「今度は私が身を盾にしてでも守ってみせる! そも、拒めば貴様はここで散るしかないのだぞ? この方は伝説の系譜に連なる方。クリスティン・ライナック様だ」

 想像通りの相手であると証明されてしまった。

「やっぱりそうかよ。とうとう出てきちまったか」

「知っていたのか? ならば考える余地もあるまい」

「仕方ねえな。じゃあ、本気でるまでだ!」


 先に黄緑の敵に連撃を浴びせる。意表を突かれて退き気味になったところで水色にバルカンを放つ。躱されるのは計算のうち。軌道を限定するように追い込むとガラント機を背負わせる。

 そこで突撃して大振りの斬撃。躱せばブラインドでローディカが斬られるかもしれないので水色は受けに回る。リューンの右の斬り落としをブレードで弾き、左も巻き込むように逸らしたところでビームカノンを突き出してくる。筒先を左足で蹴り上げ、右足の回し蹴りを胴に放り込んだ。


「ぐぅっ! 接近戦では不利か」

 リューンの装備を見てそう判断したらしい。

「閣下!」

「邪魔すんなよ!」

 割り込む二連撃のビームにパシュランを下がらせるしかない。

「躱しただと!?」

「大人しくやられろってのか!」


 急接近したリューンは黄緑の機体のビームカノンを斬り裂きながら迫る。突きが頭部を掠めて火花を散らした。

 だが、瞬時に敵機は横滑りをしている。その瞬間、リューンは胴の中央を貫く輝線を感じていた。

 振り向きざまに輝線に剣閃を送り込む。少し遅れて到達したビームはフォトンブレードに断ち割られて拡散して消えた。


「斬っただと? 君はいったい何を!」

「うるせえな。斬らねえと当たるだろうが」

 舌打ちとともに台詞を投げ掛ける。


 両手の力場剣を構え直してリューンは難敵と対峙する。

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