伝説の到来(8)
パシュランを駐機スペースに入れると整備士たちが集まってくる。
「タフな機体なのに、こんな壊し方をするかい?」
フランソワに皮肉られた。
「悪い。頭は駄目そうだ。換装してくれ」
「いいってことさ。お前さんは壊さないほうだから部品は余ってる」
そう言いながら簡易糧食のパックと無重力タンブラーを流してくる。0.1Gに引かれて緩やかに放物線を描くそれらを受け止めた。
「換装はすぐに済むけど接続チェックはしっかりやらせてもらうよ。休んどきな」
「おう、助かる」
キャットウォークまで飛んだリューンは手近なコンソールまで行くと傍らに座り込んだ。
「フィーナ、そこにエムスは居るか?」
オペレータ卓へと繋いだのだ。
「居るよ。観戦してた。待ってね」
「どうしたの、剣王?」
王子が映り込んで尋ねてきた。
「お前、ガラントのおっさんと親しいのか?」
「うん、尊敬してる。時間が取れたら話しに来てくれるんだ」
「それでかよ」
あの激昂はそれが原因だったようだ。
「何か言ってた?」
「散々罵られたぜ。汚ねえだの狂ってるだの」
「ごめんね。心配してくれてるんだと思う。僕が話そうか?」
エムストリの下がり眉に失笑する。
「繋がるかよ。まだ戦闘中だ」
「ターナ
「困ったなぁ」
フィーナに説明されても諦めがつかないようだ。
見るからに親交は深かったらしい。ガラントのあの固執も、幼い年代への愛情と庇護心の結果なのかもしれない。悪い人間ではない。敵にするには面倒な性質なだけだ。
「とりあえず置いとけ。今は聞く耳持たねえ感じだった。また考える」
リューンが肩を竦めると納得したようだ。
「うん、お願い」
「お兄ちゃんがそのうち何とかしてくれるから」
「また出撃するから一回切るぞ」
パネルをスワイプして除け、立ち上がる。
◇ ◇ ◇
「戦闘光確認!」
「そのままの速度を維持して接近。私はエクセリオンで出る」
「お供します」
「ああ、来い」
格納庫には彼の専用機である水色のアームドスキンがクリスティンを待っていた。その横には高機動汎用型で隊長機として開発されたオルドバンが佇立している。イムニ用のその機体は特別に黄緑色に塗色されていた。
「乗らずに済めばと思っていたけどな。なかなか上手くはいかないものだ」
思わず苦笑を浮かべてしまう。
「彼奴らが悪いのです。閣下のご厚情を受けるに値しません」
「願うなら、早めに鎮圧に導くとしたい」
「妨げられる者などどこにもおりますまい」
ヘルメットのバイザーを降ろし与圧の音を聞きながら、彼の発進を告げる整備士たちの動きを眺める。
◇ ◇ ◇
リューンの退けたローディカは敵部隊の中核戦力だったらしく、及び腰となった相手の奥深くへとダイナはチームを進めている。抜いて敵艦に迫るほどではないが、かなりのダメージを与えられているのは確かだろう。
(パシュランの再発進も聞いている)
じきに合流してくるか、どこかを突き崩しに掛かるはず。
(少し掛かり気味か。退きどころを間違えると追い込み過ぎるかもしれん。全体が見える位置を取るべきか)
立場からして全軍の掌握は必要だ。兼務できると思わせなくてはパイロットシートから降ろされてしまう可能性が出てくる。そのための電装系の強化は女史に打診しているが良い返事がない。ジャーグにはそれだけのマシンパワーを持たせていないらしく、更なるカスタムが必要になるという。
「さて、上か? ……どうした?」
母艦からの通信に耳を傾ける。
「敵の増援です! 艦数十八! アームドスキン部隊も多数……。え、す、すみません! 女史がゼムナ軍だとおっしゃってます!」
「なにぃ!」
全く想定外の事態に声が裏返る。
「なんでだ!?」
「それは……、自分にもさっぱり」
「来てしまったものは仕方なくてよ」
相手はエルシに切り替わる。
「こちらの援軍でない以上は敵。そう思わなくては手痛い被害をこうむることになるかしらね」
「全部隊に指示を! 下がって編隊を組み直せ! 迎撃準備!」
ダイナの判断は早かった。しかし、それが全部隊に徹底されるまでには時間を要する。ましてや押し気味の戦況において、相反するような命令に躊躇った者は初動対応が遅れてしまったようだ。
その間にゼムナ軍だと思われる部隊が参戦してくる。援軍に勢いを盛り返すアルミナ軍と、進軍速度そのままに襲い掛かってくるゼムナ軍に双方向から攻め込まれることになった。
とりわけ逃げ遅れた部隊の損害が激しい。それは先陣を切って現れた水色の機体が無双するかの如く友軍機を撃破しているからだ。
(マズい! このままじゃ総崩れになりかねないぞ!)
焦燥に心臓が縮まるような感触。
「離脱支援を! 悪いが付き合ってくれ!」
「聞くまでもないよ。さっさと行くさね」
アルタミラが並んでくる。
「ちょっと覚悟を決めて……」
「何やってやがる! いいから踏めよ!」
「リューン!」
唱和するように声が重なる。
部隊横を貫いていった銀線に、ダイナたちは続いてイオンジェットの咆哮を響かせた。
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