アルミナ侵攻(8)
気になりながらも、吹っ切れた振りをしていたフィーナは部屋の片付けをしていた。そこへ
当直にはまだ間があり、訝しみながらドアの向こうへと顔を覗かせるとリューンが手招きをしている。
「エルシが拾い集めてくれたぞ。お前は観とかなきゃいけねえだろうな」
そう告げてきた。
「何を?」
「出してやれ」
「ええ」
開いたスペースに大型の2D投映パネルが浮き上がり動画の再生を始める。
「ジェニー……?」
そこには学校の友人の姿が映っていた。
『あんまりひどいんでこの動画を投稿します。どうかあの娘に届きますように』
そう前置きをして彼女は話し始めた。
『先日、王立放送局の取材を受けました。行方の分からなくなった大切な友達から届いたメッセージの件です。皆さんも報道で少なからず知っているかと思ってそこは割愛します』
決然とした物言いに少女の覚悟が窺える。
『音信不通だったフィーナからメッセージが届いてあたしは本当に嬉しかった。同じくメッセージを受け取った
初めて知った経緯にフィーナは「あ……!」とこぼしてしまう。
『本当は少し嫌だったのだけど、そのメッセージに少し誤解が混じっているような印象があって、あたしは取材を受けることにしたんです。さよならを告げられたのは、フィーナが前にあたしたちが話したことを知ったからじゃないかって気がして。弁解したいのに伝える先がなくって、その場がもらえるんじゃないかと思ったんです』
彼女の吐露は続く。
『フィーナがいなくなってすぐ、やっぱり王立放送局の取材を受けました。その時あたしは「大変だったみたいです。兄妹二人だから仕方なかったたんじゃないかな?」ってコメントしてます。まるでお兄さんが無理矢理彼女を連れて行こうとしても抵抗できなかったんじゃないかって聞こえます。でもこれは一部だけなんです』
ジェニーの顔が歪む。
『本当は「でも、兄妹仲はすごく良かったし、フィーナはお兄さんことを慕っていたから付いていっただけだと思います。お兄さんだって言われているような乱暴なだけの人じゃないって聞いてました」ってしゃべってたのに、そこは切られてしまって変なふうに編集されてて。それがショックでちょっと大人が信じられなくなっちゃってました』
瞳が潤んできている。こんなふうに自分をさらけ出すのも恥ずかしくて仕方ないのではないかと思う。
『今度こそちゃんとしゃべってやるって決意して取材を受けたのに結果は同じでした。満足にしゃべれないうちに誘導されて、大人が欲しがっているコメントだけ引き出されて、その後の本当に伝えたい部分は声も消されていたんです。悔しくてつらくってどうしようもなくて……』
彼女の目は赤い。泣き腫らしたのだろう。
『だから思い切ってこの動画を上げてみようって友達と話し合って決めたんです!』
ジェニーの後ろにいた少女もおずおずとカメラの前に出てくる。やはりフィーナとは仲の良かった友人の一人だった。
「トリン……」
「こいつ、見たことあるな」
兄にも見覚えのある相手だったらしい。
『ごめんね、フィーナ。わたしもジェニーと同じで、結果的にひどいことを言ってしまってた……。流れたのは「フィーナ、どうなっちゃうんだろう? お兄さんですか? 怖かったですよ」って部分だったけど、それだけじゃなかったんです。続けて「でも、それは見た目だけで本当はすごく優しい人なんです。わたしが怖い感じの人に絡まれた時に助けてくれて、その後家まで送ってくれたんです。とてもテロリストとかスパイだとかとは思えません。フィーナにも優しかったみたいだから誤解だと思います」って言ったんです』
元から引っ込み思案のトリンがつっかえながらも必死に思いを告げる。
『お兄さんにちょっと憧れてるって言ったのは嘘じゃないの、フィーナ。本当に好きになってたの。フィーナは少し嫉妬していたけど、友達に嘘つきたくないから伝えたの。なのに、わたし、嘘つきみたいになってすごく苦しくって……』
声を詰まらせ、泣き崩れそうになるトリンをジェニーが支える。
『これがあたしたちの本当の気持ちです! どうかフィーナに伝わって! みんな、今でも友達だって思っているし、帰ってきてほしいって思っているんです。お兄さん、リューンさんのことだってニュースの話なんて信じてません! あたしたちを許して! またあの頃みたいにみんなでおしゃべりしたい……』
そこまで言うとジェニーも涙を流して話せなくなってしまい、動画は終了した。
フィーナの瞳からは大粒の涙がこぼれ、止まらなくなってしまう。口に手を当て言葉もなく佇んでいると兄に背を抱かれた。
他の友人からも勇気を振り絞ったかのような動画が多数寄せられている。それをフィーナは霞む視界で見続けた。
「お兄ちゃん、これも人間だよ」
「そうだな」
鼻白んだ様子を見せるかと思ったリューンは満足げに笑っている。それで気付いた。兄もこんな結果が出るのを期待していたのだと。
「さーて、今度はこっちの番だな」
リューンはニヤリと笑う。
「俺様がこいつらとゆっくり話せる場所を作ってやる。それができない国にしちまった奴らをぶっ潰してな」
兄は剣呑な空気を纏いつかせていた。
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