アルミナ侵攻(3)
怒りの声を上げているのはフェン・ポウ外務大臣である。テロリストどもが装備を充実させてきたのは、アルミナ統制の権利を周辺諸国に主張し足りない所為だと指摘されたからだろう。それが原因で、密かにゼフォーンに素材が流れ続けてきたのではないかとナグティマ国務大臣は思っているようだった。
「わたくしは徹底してゼフォーンに外交を禁じ、交易も監視してまいりました! 近隣国家にも危険性を訴え、どんな甘言を弄しようともテロリストを支援することのないよう口を酸っぱくして言っていましたのよ!」
大きな目を吊り上げて主張する。
「まあ落ち着きたまえ」
「私が言ったのは可能性の一つに過ぎんのだ。気に障ったのなら謝ろう」
キオーも国務相もフォローに回る。
「陛下のお示しになる指針の通り、産業の管理に目を光らせてきたわたくしの仕事を批判されては堪りませんわ」
まだぶつぶつと言っている。
フェンは、茶色のショートヘアーの頭を巡らせて他の四家の筆頭当主を睨む。細面の造作は整っているが、他の部品が小作りなのに比して大きな目ばかりが目立つ印象が拭えない。怒りで逆立つそれは見る者に圧迫感を感じさせる。
四家の一つポウ家の筆頭当主としては年若いほうだといえよう。並みいる論客当主を押し退けて、ポウ家筆頭へとのし上がってきた彼女の舌鋒は鋭い。それだけに二人がたじろいだのも仕方ないだろう。
「投資予算を締め付け、産業の仕分けをして継続、縮小などの判断をして、それを納得させるのがどれほど大変か理解していただきたいものです」
「分かっておるとも」
フェンのひと睨みで相手は引き下がるだろうと思ったのはおくびにも出さない。
「現状、ゼフォーンは開かれてしまっている。今後は交易管理も不可能。勢力拡大は見逃さざるを得ませんな」
「これからもわたくしはゼフォーンの非正当性と危険性を説き続けて、諸国の協力を得る努力は続けてまいりますわ」
「うむ、その辺りは彼女に任せようではないか、ナグティマ国務相」
キオーはアックに批判を収めるよう提案した。
この流れを国王メルクードは静観している。問題がないと思っているのではなく理解していないのだ。彼には国政の詳細部分に関与させていない。その必要性も感じていないはず。
ただ、王政堅持の正当性だけを教えこまれた王はそれらを些事だと思うようになっている。自らが君臨するのがアルミナの在り方だと信じ切っているのだ。
「持つはずのない組織拡大がここまで進んだのが不思議でなりませんことよ」
ヨーミ・ジーム財務大臣は首を傾げる。
「抵抗運動が激化したところでいずれ財政破綻すると思っておりましたのに、無茶が利いてしまったのはなぜなのでしょう?」
「それはテロリストを支援していたのが諸外国だけではないからではありませんの? 国内企業の資金流出はわたくしのほうでも掴んでおりましてよ?」
「それは国内産業を管轄する私に落ち度があるとおっしゃりたいのですか?」
ジーム家筆頭当主ヨーミの表情は読みにくい。平凡な造作は化粧で誤魔化されているものの、全体にのっぺりとした感じのする顔立ちはあまり変化を見せないのだ。
口調にも激した印象がこもってはいない。しかし、内心ではどう感じているかは測れない。相当に怒っている可能性もある。
「不正献金の件、忘れたとはおっしゃらないでしょう?」
フェンが攻めに転じる。
「あれは秘書官が処理した案件で、私は存じないと申し上げたでしょう?」
「それでも騒ぎ立てたマスコミをキオー様が抑えてくださらなければ、陛下の権威に傷が付くかもしれなかったほどの醜聞なのは認めてくださらないと。献金の出所がゼフォーンでないことを祈るばかりですわ」
「まるでテロリスト支援企業を献金で私が見逃したかのように言われるのですね?」
さすがのヨーミも眉間に皺を寄せる。
「そこまでは……」
「これこれ、御前であるぞ。過去をあげつらうのはやめて建設的な協議を続けようではないか」
「ええ、御恩のあるキオー様がそうおっしゃるのでしたら」
女性二人の舌戦は一応の収束を見せる。
もっとも年嵩のキオーが纏め役を演じねばならない。四家も全く以って一枚岩とは言えない状態だ。
「まずは第5ジャンプグリッドを占拠しているテロリストどもを排除せねばならん」
彼らにとって
「が、国防を預かる身で恥ずかしながら、彼奴らの勢いは侮れないのも事実と認めないわけにはいかん。何らかの策を講じねばいかんのだが、儂からの提案がある」
「何でございましょう?」
重々しい前置きに皆の目が向く。
「陛下のご出座などとは申し上げない。どなたか王族の方に兵の鼓舞をお願いしたい。さすれば大戦を勝ち抜いた精強なるアルミナ将兵も本来の力を発揮できると愚考いたすが如何なものでしょう?」
「ふむ」
視線を向けられたメルクードは納得する。
「余が動くほどではなかろう。頃合いかもしれぬな。では、アルミナの将来を知るべきものとして王子エムストリを観戦させよう。それでどうだ?」
「おお、殿下が号令を発してくださるのでしたら兵の意気も上がりましょうぞ」
(自分が戦場に赴くのは怖ろしいと見える。まあ、そのくらいで構わんだろう)
キオーは内心で国王の言を嗤う。
(当面は士気を繋げられればいい。最強の援軍が到着するまでな)
彼の思惑は大きな期待を抱くものではなかった。
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