第九話
独立と外交(1)
惑星上からアルミナ統制政府及び治安維持軍を排除したゼフォーン。数多く駐留していた軌道艦隊も寄港地を失い、補給整備が不可能になり撤退。最寄りのジャンプグリッドから本国へと逃げ帰った。
軌道衛星などの監視・観測用の無人設備などもそのままになっている。一部は腹立ちまぎれに破壊されたが、本当にごく一部でしかない。それらはエルシを始めとした技術者の手により制御下に置かれ、情報は暫定政府へも届けられるようになった。
アルミナは統制の一環として外交も制限下に置いていた。
かなりの数を誇るジャンプグリッドもそれぞれ近傍に基地が置かれ入出を管理されていたのである。降伏を目的としてコンタクトされたそれらの基地からの応答は一つもない。要員も撤収したと考えられるが、一応は調査艇が現地へ向かっている。
惑星ゼフォーンを含むハルム星系からアルミナ勢力が撤収したのかといえばそうではない。ブリッカス星系のアルミナへ繋がる第8と第26ジャンプグリッド近傍に置かれた宇宙要塞には相応の戦力が残っているのが確認されている。
交通・物流は既に滞っており、ゼフォーンに対する最終防衛ラインとして死守する構えだ。その所為でゼフォーン船籍の交易船が多数、アルミナに残されているのも懸念材料となっていた。
それらは、これからアルミナとの交渉で解消していかなくてはならない課題であり、忙しくなるのは暫定政府の公務に携わる者となる。そして、時間を持て余すのは戦いに明け暮れていた人間だ。
「夏だぜ」
日陰に敷いたマットの上に寝転んだリューンは呟いた。お腹の上に座っているペコが「ワン!」と返事をする。今日ばかりは
そこは二つのアームドスキン
外に出れば日差しを受けられるのだが、真夏のそれは強烈過ぎて暑いでは済まない。なので少し格納庫に入ったメッシュ床にマットを敷いてくつろいでいるのだ。
「ねー、泳ごうよー、お兄ちゃん」
やってきたのはフィーナ。
「もうちょっと休んだらな」
「結構ゴロゴロしてたくせにー」
そう誘いに来たのだから当然妹は水着をつけている。兄としては少々心配になるくらいの面積しかなかったが、赤い水着が金髪と黄色みの強い肌に映えていた。
胸元の隆起は年々成長し、腰に向けてキュッとくびれている。そこから健康的な張りのあるお尻へと絶妙なラインを描いていた。
最近の運動ブームで少し筋肉が目立つようになっているが、女性的な丸みがそれを補って美的に感じさせている。成熟への階段をあと数段残していると思わせる身体つきと可愛らしい顔つきが相まって、芸術性よりは健康美というのが的を射ているだろうと思われた。
彼女の向こうには僅かに緑掛かった青い海。見渡す限りの水平線にはところどころ真っ白な雲がもくもくと沸き立っている。
ここは海のど真ん中。ベゼルドラナンは着水しているのだ。喫水は舷側装甲板から1mの下。掛けられたタラップから上がってきたクルーたちはまた海へと飛び込んで楽しんでいる。男女入り混じった歓声がそこの主役だった。
「遊んでくれば?」
諦めたフィーナは駆けていって海に飛び込んでいる。
「そうだなぁ」
「まさか泳げないとか言うんじゃないでしょう?」
「いやー、泳げるんだけどよぉ。俺も海は初めてだしなぁ」
初めてだった海に不安を感じて騒いでいた妹も、今は皆に混じって楽しんでいる。プールで普通に泳げていたリューンも問題無いとは思うが、若干の不安があるのも事実だった。
「ちょっと加減なく鍛えていたらな、昔と違ってスポーツ選手並みの体脂肪率になっちまってるんだよ。はたして前みたいに泳げるかっつったら微妙じゃねえか?」
「そんなふうに思っていたのね」
現在のリューンは筋張ってきている。筋骨隆々ってわけではないが、それぞれの筋肉に名札を付けようとすれば苦労しないほどにはっきりと際立っている。
それが分かるのは彼自身も水着をつけているからに他ない。彼女の納得も得られると思う。
「大丈夫よ。海水は淡水より比重が高いから、あなただって浮くわ」
「知識としては分かってんだけどなぁ」
そう言ったエルシも先刻から上半身を起こしただけで隣のマットに腰掛けている。振り返ればなまめかしい稜線が少年の目に飛び込んでくるのだ。
フィーナと同じ形の水着だが、布地を押し上げる隆起は遥かに差を空けている。自重で下がるのは如何ともしがたいが、描くラインは刺激的に他ならない。
くびれにかけては美的に設計されたかのような理想的な曲線。ヒップラインの張り出しは煽情的で、周囲の目を奪わずにいられないだろう。
艶のある肌はきめ細かく、触れれば吸い付くのではないかと感じさせる。それらが白い水着に包まれ、フェロモンを放っている。
彼女が何者かを知っているリューンでも少々目のやり場に困る羽目になっているのだ。
「しゃーねえな。いくか」
「私も海は久しぶり。少し楽しんでみようかしら」
立ち上がった兄に気付いたフィーナが手を振る海面目指して、リューンは駆け出していた。
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