本星決戦(11)

「戦後統制の是非なんぞそんなに興味はなかったぜ」

 フォトンブレードを閃かせつつリューンは押し込む。

「王室が何をしようが四家の連中が何を企もうがどうでもいい。あの業突く張りどもに多少の融通を利かそうが些細なことだと思ってたぜ。でもよ、とうとう手を組んで俺と妹をアルミナに居られなくしやがった。生き残るためにはもう加減なんてしてやんねえ。叩き潰す!」


 強い口調にガラントのローディカは少しずつ後退する。混乱しているのもあるだろう。そこへ援護射撃がくる。劣勢と感じたアルミナ軍機が気を利かせたか。その横合いからのビームも、リューンは斬り裂いて拡散させた。

 バイザーのスリットの奥の双眸が煌々と輝き、飛散するエネルギーの奔流がパシュランの銀色の装甲に反射して彩る。それは少年の気迫を象徴するように壮絶な光景だった。


「なぜ……。どうしてそうも戦士なのだ。その若さでそこまで覚悟ができるものか?」

 怖れおののくガラントの声に当初の覇気は感じられなくなっている。

「血のなせる業かもな。だがな、アルミナの策動も原因の一つだってのは間違いねえぞ」

「私は勘違いしてたのか……。幼い精神が歪んでいく過程ではなく、君は既に戦士の魂を宿していたのだな」

「心置きなく戦えるとでもいうか? あんただって命令されてんだろ、俺を殺せってな」


 牽制のビームも狙いが甘くなってきている。危うい位置への一撃を斬り裂き、機体を振りながら接近していく。

 リューンの斬撃への反応も僅かに遅れ気味。きちんと合わせきれなかったブレードは弾かれ、ローディカの胴体はがら空きになる。左のフォトンブレードはかろうじてジェットシールドで防いだが、雑な前蹴りでもコクピットを揺らすのには十分。続くバルカンから逃げるのが精一杯という感じがするほどの動揺。


「ぐうっ! あ、あれは剣王に対する命令ではないのか?」

 ガラントはそう理解していたらしい。

「違うな。そいつは俺個人に対するもんだろう」

「リューン・バレル抹殺指令。まさかとは思ったが……」

「理由までは知らねえみてえだな。上のやつに訊いてみろよ。動機までは分からなくても、どこからの要請かくらいは知ってるはずだぜ」

 しゃべり過ぎたか。動きに落ち着きが感じられるようになってくる。

「何をすれば抹殺指令など出る? 王制を維持しているとはいえアルミナとて近代国家。大逆でも目論まない限り、個人の生存権まで侵すような命令は出ないと思われるが」

「奴らにとって俺様はそれくらい厄介な存在なんだろうさ。アルミナをそそのかしてでも消してえほどな」

「君は何者だ!」


 ガラントの覇気が戻ってきた。

 自ら接近戦を挑みブレードを閃かせる。力場剣の刃に噛み付いたイオン噴流が火花を散らしながら幾度も叩きつけられる。弾くのには苦労しないが、巻き取れるほどの隙は無い。動揺は完全に覚めてしまったようだ。

 二機はときに舞い上がって組み合い、ときに大地を踏みしめて渾身の一撃を放ちながら激突を繰り返す。


「知らねえほうがいいんじゃねえか? 下手すりゃあんたも抹殺対象になっちまうかもしれねえ」

 少年の上段からの斬り落としを交差したブレードが受ける。

「生きて捕らえねば聞く耳も持たんか」

「よしとけ。できもしねえことをよ!」


 ブレード同士が噛み合う異音が突如として途切れる。機体をひるがえらせたリューンは背後からの狙撃を袈裟斬りにして防いだ。


「殺気こもってんじゃねえか、腰抜けが!」

 視界に捉えたファンキーなカラーリングのローディカに向かって吠える。

「僕を腰抜けとは呼ばないでくれないか、銀色くん。ガラント殿、退き時です。防衛線は崩れてしまいました」

「なんだと?」


 前面のXFiゼフィ部隊を中心とした主力に戦力を集中しているうちに、後方から迫っていた抵抗組織連合が宇宙ポートの守備隊を切り崩しつつあった。


「どうするよ? 今退かなきゃ全滅もあるぜ?」

 撤退用に停泊している艦艇を指してみせる。

「彼の言う通りですよ。基地要員の乗艦も済んでいます。ここはもう厳しい」

「貴様が言うのならば確かなのだろうな。リューン、ここまでが君たちのシナリオかね?」

「分析は専門の人間に任せといたほうがいいんじゃねえか?」


 退路を断つと見せかけて退かせる。それがエルシとダイナが立てた作戦だ。この二機が今後も立ち塞がるであろう難敵であっても、今は深追いしてまで叩く気はない。


「道理だな。次に相まみえる時までに届く言葉を用意しておこう、戦士よ」

 後退しつつガラントが伝えてくる。

「アルミナ首脳陣の聞き分けが良ければ、もうあんたと戦う機会なんてねえはずだがな」

「それに関して私はコメントすべきではないな」

 返事には笑いが含まれていた。


 リューンは壮年の男の心意気に、ただ見送る姿勢を選ぶ。彼の予想ではまた会うような気がしていた。


「お兄ちゃん、聞こえる?」

 かなりノイズがひどい。

「何とかな」

「やっと繋がった。もう、ターナミスト、濃過ぎ! 追撃不要だって」

「追わねえよ。心配すんな」


 ダイナ隊の面々も撤収を監視するように集まってくる。


「無事かい、リューン」

「あの程度でやられるかよ、ルッティ」

 エフィの相手をしていた、アルタミラを始めとした数機も無事なようだ。

「よお、チェスカ。色男とのデートは楽しかったか?」

「うるさい! あんな軟派は嫌い!」

「不良は嫌だの軟派は嫌だのと注文が多いな」

 膨れ面が容易に想像できる。

「美人の特権だもんね」

「ミントまで!」

「きゃははー」


 離陸する艦艇群を見上げていたら、ダイナが勝利を宣言する。それに呼応して歓呼の声が共用回線を賑わわせる。


 リューンは長大なフォトンブレードを突き上げて雄叫びを上げた。



※ 次回更新は『ゼムナ戦記 神話の時代』第九話「ジレルドット攻略戦」になります。

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