解放攻勢(6)

 ターナミストを散布した時点で警報が出る。純粋な奇襲というのは難しい状況で、ダイナ・デズンは格納庫から出てきたラズーバを殴り付ける。軍ではあまり見なくなった量産機もここでは現役だ。


「慎重にいけ」

 周囲に目を走らせつつ指示を出す。

「分かってますって、隊長。間違っても誘爆なんてさせませんから」

「ビームブレードの使用も気を付けろ」

 ブレードで斬り結んだときに発生する重金属の火花だけでも生身の人に当たれば致命傷になる。


 基本的には三機組で配置したが、彼とフレッデンの組とモルダイトとピートの組は二機で管区警察に仕掛けている。


「この装備、XFiゼフィか! つけあがるな!」

 同じ抵抗勢力レジスタンスでも自前の機種を投入している組織は限られる。

「十分に警戒してるさ。俺がサポートを付けているんだからな」

「独りで放り出された人も居ましたけどね」

 リューンの扱いを皮肉る。

「だったらお前、あいつに付き合えるか?」

「分かっていますよ。苦渋の決断だったっていうのは」


(そうでもないんだけどな)

 勝手をされて誰かが振り回された挙句に苦境に陥るよりは、好きにさせたほうがいいと彼も思っている


 前傾して低く踏み込み、両脚を斬り裂く。落ちた上半身のコクピットをブレードで貫こうとしたが、ハッチが開いたので逃げ出すのを待ってから内部を焼くに留めた。

 右から斬り掛かってきた警察機の斬撃をジェットシールドで受け、押し込むように近付くと左の拳で胸部を何度も突く。それでも抵抗を止めないので、左にもブレードを持ってコクピットを横薙ぎにした。


「どうして飛ぶんです!」

 飛び上がるのは市民の盾になる気が無いと意味だ。本来の責務など歯牙にも掛けない行動にフレッデンは持ち前の正義感に火が点いたようだ。

「貴様らが襲ってくるからだ!」

「被害を出すのを躊躇わないのなら!」

 直上で組み付いたフレッデン機は相手が構えたバルカンファランクスを斬り飛ばし反転させて叩きつける。馬乗りになって胸の中心を貫き、地面に縫い付けた。

「あまり派手にやるな、フレディ」

対消滅炉エンジンには傷も付けてません」


 誘爆させずとも、衝突音は彼方まで響いたであろう。


   ◇      ◇      ◇


 バイクの少年少女は緊張した面持ちで街中を走る。逃げているのではない。


「普段、でかい顔をしてる警察のやつらに一泡吹かせてやるぞ!」

 実質的リーダーのオリバーが鬨の声を上げる。

「抵抗勢力の襲撃で動揺している隙を狙え!」

「ぶちかましてやるぜ!」

「ひどい目に遭ったメイムの仇よ!」

 みなぎる闘志はそれぞれの思いを反映している。


 治安機関のトップはもちろん、幹部連はほぼアルミナ人。その下にも幹部におもねるような人間ばかりが集められている。彼らみたいな存在でなくとも弾圧の対象としか見ていないような者ばかり。この機会に復讐を、と考えているのはオリバーだけではなかった。


「いいか、アームドスキンが飛び立ったら襲撃するぞ」

 環状交差点の影から様子を窺う。

「うん。一気に行かないと容赦なく発砲してくるわよ」

「ぶん殴ってやるぜ」


 手にする武器はナイフや金属パイプがせいぜい。銃器など入手できない。

 そもそも命を奪う覚悟もない。ナイフにしても斬り付けて驚かせるくらいのつもりでしかない。


(いいのか? こんなんで俺たち満足できるのか?)


 暴力で圧倒できれば留飲は下がるだろう。だが、その先に何があるのかまで考えていない闇雲な行動だ。終わった後に自分の中に何が残るのかピストは不安だった。


(鬱憤晴らしに拳を振るってゼフォーン人同士で傷付け合って……)

 恨みだけが残るような気がしてならない。

(なら、どうすりゃいいんだよ)

 胸のもやもやが一向に晴れない。


「どけどけ! 邪魔だ!」

 アームドスキンが喚きながら格納庫から出てくる。

「目障りな奴は踏みつぶすぞ!」

 嘲笑交じりであるが本気でやるだろう。


 通りを行き交う人々や車は巨大な人型兵器の出現に逃げ惑う。操っているのは間違いなくアルミナ人のパイロットだ。その蛮行を止められる者などいない。


(本当にぶん殴ってやらなきゃいけないのは奴らじゃないか)

 彼は歯噛みする。

(だからってあんなのに挑みかかるのは無謀)


 老若男女問わず逃げ出す人々の中には転ぶ者や腰を抜かして動けなくなる者も少なくない。それらを嘲るように3m以上ある金属の足が踏み出される。


「わああー!」


 自分でも雄叫びなのか悲鳴なのか区別のつかないような声がほとばしる。汗で滑りそうになる手を叱咤してアクセルを捻る。

 巨大な猛威に向けてピストはバイクを突進させる。身体の芯が熱くなってもう何も考えていない。


「こっち向けよ、馬鹿野郎! 俺が遊んでやるぜ!」

 アームドスキンの前で後輪を滑らせてターン。

「なんだぁー? ガキが生意気な!」

「どうした、二番機?」

「バイクの小僧が喧嘩吹っ掛けてきてるんだって」

 出てきた三機の注目を浴びる。

「今はそれどころじゃないんだぜ?」

「軽く蹴ってやるか」

 笑いが交差する。

「おい、急げ」

「でも、隊長。軍の部隊が来てるんでしょう? 無理に急がなくたって」

「怖いのかー! 腰抜けどもがー!」

 ピストは勢い任せに吠える。


 交差点から彼の仲間が走り出てくる。一群になって通りの車を端に寄せるように動いていた。


「ピスト! 来い!」

 オリバーは彼の意図を分かってくれたらしい。手にしていた武器を次々と機体に向けて投げ付けながら走り去る。ピストもナイフを投げ付けると開けた通りへとバイクを向け、テールを振ってタイヤに煙を吹かせる。


(俺は馬鹿だ)


 アームドスキンの気を惹いて人々に被害が出るのは防げても、自分が助かる道はない。浮き上がった機体は余裕をもって彼のバイクに影を落としていた。

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