解放攻勢(2)
「こんな機会が無ければ、ご尊顔を拝し奉るもままならず……」
まるでエルシを女神のように信奉する者も少なからず、それに辟易したリューンは早々に逃げ出した。渋い顔をフィーナに笑われるが苦手なものは仕方がない。
その後もパレードのように乗員が戦艦ベゼルドラナンへと行進している。ペコを肩に乗せてこっそりと紛れ込もうとした彼だが、トルメアに見つかって握手を求められてしまった。ミックを構っているうちにリューンが剣王だというのが知れ渡ってしまい、盛大な剣王コールを浴びながら逃げ込むように乗艦しなければならなかった。
◇ ◇ ◇
「うおっ!」
目に入った銀色に感嘆する。
リューンの居場所が限定される艦内。まずはアームドスキン
「なんか頑丈そうなアームドスキンだね?」
フィーナと一緒に見上げる。剣呑な空気を纏うアームドスキンだ。
鎧という印象が強い。青いカメラアイぎりぎりまで分厚い装甲のバイザーが頭部を覆っている。縦長のスリットが複数並んでいるのは、その裏にセンサー類が詰まっているからかもしれない。
手足も末端が太く武骨で、基部になるショルダーユニットやヒップユニットも大きく、それを覆う装甲も頑強に見える。磨かれた銀の表面が全体を更に大きく見せているように思えた。
背後に回ると
この『ラウンダーテール』という名称も伝統的に残っているだけである。初期のアームドスキンに装備された推進機は、円形加速器に可動式噴射管を備えたもの。それ故に
現在では技術が進歩し直管型加速器が主流になっているのだが、それ以降は背部に装備される可動式推進機を総じてラウンダーテールと呼ぶようになったのである。
この機体に装備された
「なんだ、こいつは?」
リューンは妙な予感を覚えながらもそう口にする。
「そのアームドスキンはコード『パシュラン』。あなたの専用機よ」
「やっぱりかよ。また派手なのを造りやがって」
背後からの声に反応して非難の目を向ける。
「目立ってしょうがねえだろうが」
「あなたは目立つのが仕事でしょう? 黙って的におなりなさい」
「なあ、こいつの口振りを聞いていると俺を殺したがっているように聞こえねえ?」
フィーナに同意を求めた。
「そうかなぁ? これだけ怖そうだと逃げない?」
「いや無理だろ。お互いに殺る気満々で面突き合わせる場所なんだぜ?」
妹は「それに装甲も厚そうだし」と続ける。どうやらエルシの味方らしい。
フィーナはリューンのイメージカラーになりつつある銀色がお気に入りだ。それに彼が目立つのを好ましく感じている節がある。今も美しい銀色を見上げて笑みを崩さない。
「武装はあれだけなんですか?」
彼女は腰の横、ヒップガードに装備された小径の三連装砲口を指差す。
「ええ、どうせ銃器を持たせても持ち替えに時間と手間が掛かるだけだもの。一体型固定武装にしたわ」
「正面だけ向いてろってか?」
ビームバルカンらしいそれは機体を振り向けないいと照準がききそうにない。
「両手が空いているほうが便利でしょって意味よ。その代りにいい物を持たせてあげるから」
エルシは首掛けのモバイルから管理用2D投映コンソールを立ち上げると、そこにブレードグリップを表示させる。これまでの物より更に大振りなグリップにはナックルガードまで付いている。
実物がパシュランの
「フォトンブレードよ」
「
直訳するフィーナに美女は首を振る。
「名前は便宜的に付けたもの。実際には純粋な力場剣なんだけれども、性質上取り込んだ外光を内部で乱反射させてほのかに光るところからそんな名で呼んでいるのよ」
コンソールに表示されている稼働時の映像では、透過する薄黄色の剣が形成されている。ビームブレードのような青白い棒状の噴流ではない。
「力場? それで斬れんのか?」
今の彼の知る常識では、力場といえば主に電磁場になる。それは武装の基本構造。ビームであれば収束に使い、ブレードであれば還流させるのに使うという認識だ。
「電磁力と核力に作用する力場なのよ。だから物質であれば基本的に何でも斬れるし、電磁場とも干渉するからビームブレードと噛み合わせることもできるわ」
「それだと硬さとは関係なく斬れるんですね?」
「そうね、干渉する力場に覆われた物質でない限り。ビームブレードより多少エネルギー使用量は多いけど、素材の重金属ロッドを必要としないの」
フィーナの気付きに頷き返すとエルシは利点を挙げていく。
「面倒な換装がねえのは良いな」
「それに、いくらビームを斬っても誘導熱は微々たるもので、今までみたいにブレードコアが焼けて使えなくなったりしなくてよ」
「ああ、そいつが一番困るからな。そんな便利なものがあるならさっさと出してくれりゃあ良かったのによー」
リューンの不平に彼女は肩を竦める。
「今までどこにも存在しなかったものなの。ブレードでビームを斬るのが当たり前なんて考えのどこかのお馬鹿さんのために設計したんじゃない」
「……そうかよ。悪かったな」
墓穴を掘った少年は頭を掻きながら苦い顔になった。
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