XFi(ゼフィ)(6)
フィーナは医務室に呼ばれてしまったので、アームドスキン格納庫に行くリューンを見送らないといけなかった。彼女的にはさっさと済ませて合流する気だったのだが、いざ行ってみるとそうもいかなかったのである。
「悪いところは無いと思うんですけど……」
上目遣いで医務官のオリビア・ジェンキンスを見る。
見事なプラチナブロンドを腰近くまで伸ばしている女医は、恵まれたプロポーションをスキンスーツに包み、その上に白衣という非常に煽情的な格好で観察してくる。
「健康チェックは簡単なものだけよ。その前に採寸するから全部脱いで」
「採寸!?」
風土病の検査でもされるのではないかと思っていた少女は驚きの声を上げる。
「あなたのスキンスーツを作るのよ。ちゃんと男性の入室は禁止にしてあるから、ちゃっちゃと脱いでちょうだい」
「スキンスーツってわたし……、アームドスキンに乗るわけじゃないし」
「お兄さんに禁止されているんでしょ? 聞いてるわ。ただ、この通り戦闘艦乗務員は基本的に常用するものなの」
聞けば、防刃性などはともかく、耐衝撃性などは重視されるべき特性らしい。時には激しく揺れる状況で、転倒や衝突で受ける衝撃から身体を守る意図で着けるのだそうだ。
他にも、コンディショニング機能は女医にも有効だという。万一、艦が損傷を受ければ目も回るほど忙しくなるのだが、身体が熱くなったからといって再々着替えてもいられない。その時に、体表温度をチェックして自動調温してくれるスキンスーツが適しているらしい。
「ひえっ!」
説明されながら剥かれてしまう。
「あそこに立って。レーザー採寸するから」
「……はい」
言われたとおりに目を瞑って、センサーリングが身体をくまなく採寸していくのを待つ。
(プロポーションなら自信あるよ。年齢の割に発育がいいって言われてるもん)
十五歳で148cmは結構小柄なほうだ。ただ、身長以外は平均より育っている。既に女性らしい丸みを勝ち得ているフィーナはそれが自慢だった。
「まだ成長期なんだから数ヶ月に一度は受けてもらうわよ。慣れておいてね」
オリビアははっきりと伝えてくる。
「数ヶ月に一遍は剥かれるんですね……」
「まあ、その年頃だと恥ずかしいのかもね」
「頑張ります」
その後は検査着を羽織ってひと通りの健康チェックを受けたら服を着ていいと言われた。ホッとしたフィーナが着直していると呼び出し音が鳴る。
「居るのよね、フィーナ」
慌てて手を早めるが、姿を見せたのはエルシだった。
「はい、エルシさん」
「オリビア、これもお願い」
微笑を浮かべて頷くと、彼女は女医に何か手渡す。
「
少し見慣れてきた
「適性検査と、問題なければ初期設定と調整ね」
オリビアはそれを手にすると頷いているから、通じるものらしい。
「わたし、何かするんですか?」
「嫌だったらやめるけど、あなたは何かしたいタイプじゃない?」
「できることはしたいです。お邪魔にならないんだったら」
そう言うと、「じゃあ、やってみなさい」と残してエルシは去ってしまった。
すると、ヘルメット状の検査機を被せられて、コンソールの前に座るようオリビアに指示された。インフォメーションに従って検査を受ける。
単純な計算を延々と続けたり、灯る光に指を這わせたり、2Dパネルの中の積み木を思念感応で積み上げる練習をしたりと、一風変わった検査に思える。女医は横で検査機から上がってくるデータに目を通していた。
「基本データをブラッシュアップしたらσ・ルーンにダウンロードするから待っていなさい。そんなに掛からないわ」
ひと通り終わった後にそう告げられる。
「そのσ・ルーンには3Dアバターは入るんですか?」
「あなたのは動作学習はしないから不要よ。欲しいの?」
「その……、使いたいデータがあって……」
フィーナはオリビアに事情を説明する。
「そう。だったらσ・ルーンよりはそれに適した容れ物に落としたほうが良いんじゃない? 私がエルシに頼んでおいてあげるから」
願ってもいない提案をされる。
「本当ですか!」
「真面目に頑張ってくれたからそのご褒美よ」
「ありがとうございます!」
フィーナの願いは叶いそうだった。
◇ ◇ ◇
ようやく自由を得たフィーナがハンガーに出向くと、兄のリューンは汗だくになって肌着の上半身をさらしている。
「気をつけろ、フィーナ。この女、人使い荒えぞ」
珍しくへばっている。
「何言ってんだい、坊や。力仕事なら手伝うって言ったのはお前さんじゃないか?」
「誰が素人をこんなにこき使うって思うんだよ! 並じゃねえぞ!」
周りでは、彼の様子を見て爆笑している若い整備士が大勢いる。どうやらここではフランソワのその性質は常識であったらしい。
「腹が減って倒れちまうぞ!」
リューンは訴える。
「あともうちょっとさ。終わったら腹いっぱい食わしてやるから働きな」
兄の居場所が増えたことに安堵したフィーナは、一緒になって笑っていた。
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