アルミナの不良少年(10)

 狙撃に失敗すれば位置を覚られるのは当然で、更に敵を呼ぶことにもなる。陸戦隊も常駐している戦艦が相手でも、あと十五機ほどのアームドスキンが搭載されているとエルシは注意していた。


「集まってこないうちに仕留めたかったが、そんなに甘くはねえのかよ!」

    

 砲撃による撃破を捨て、接近戦に持ち込みたいリューンだが容易には近寄らせてくれない。時間を取って僚機が集結するのを待っている。五機を失った程度では冷静さを失ってくれない辺りがプロである。


「逃げるならそのまま進めばいいわ。探索のために直掩機は少なめになっているはずよ。戦艦を襲えば嫌でも寄ってくるから」

 やり方としては強引だろう。その状況で少年がどこまで戦えるか見たいところではある。

「フィーナを乗せた状態では無茶できなくて?」

「それよりはここを切り抜けたほうが手っ取り早い。どこに降ろしてたって危険なのは一緒なんだよ」


 しかし、戦艦を狙う意図も挙動で読まれてしまう。敵アームドスキンは妨害に出てきた。

 それはそれで方針転換するだけでいい。ビームを掻い潜りながら戦艦に近づけば向こうも接近戦を挑んで来なければならず、リューンのフィールドに持ち込める。


 走る輝線にジャーグを捻るようにして上昇するとビームが至近を通過していく。もう一機の砲撃を感じた彼は強く噴かして下降した。頭上を貫くビームに臆することなく突進したリューンは、機体を起こして一機の頭部を踏み付けて転進するともう一機に迫る。

 ここまでの戦いでアームドスキンでの飛行にも慣れてきた彼は、軍の訓練では見られないような変則的な機動を取る。咄嗟にジェットシールドで斬撃を受けたファーレクも、機体が流れるままに滑らせるとは思っていなかったようで対応が遅れた。

 寝かせたジャーグの頭部がジェットシールドの死角から抜けてきた時は仰天しただろう。それも長続きはしない。突き出されたブレードが脇腹から背中を貫く。操縦殻コクピットシェルの放出操作をする前にエンジンが誘爆して爆炎に飲まれてしまった。


 残された僚機はターナ光が収まる前にジャーグを捕捉しようと予測位置へ砲口を向ける。しかし、その時には回り込むように爆炎の向こうから銀色のアームドスキンが姿を見せる。


「この距離なら俺でも当たるんだぜ!」

 レーダーは利かなくとも、画像ロックオンは利く。

「レジスタンスの機体なんぞに!」

「うるせえ! 墜ちやがれ!」

 ビームは胴体を貫通して消える。一瞬の間を開けてファーレクは爆散した。


 二機は撃墜したものの、球面モニターには点々と敵機の数が増えていく。それに怯えるわけでもなく笑っているのがエルシの位置からも分かる。


(彼はやはり生粋の戦士ね)

 予想通りとはいえ、結果が確認できたのは収穫である。まずはここを切り抜けて、彼に適した改造をジャーグに施さなくてはならない。


 想定できる範囲で調整してきた機体はリューンの期待に応えたようで、一対多の戦闘にも持ち堪える。それでも、相手が五指に余るようになると、実質的に初陣の彼では厳しい状況だ。

 また、遠方に敵機を確認したところでそのアームドスキンが爆散する。少し状況は好転したらしい。


「来ましたよ、女史。頃合いは如何なものでしょう?」

 共用回線から聞き慣れた声が流れてきた。

「悪くはないわ。私は命じていないはずだけど」

教授プロフェッサーなら説き伏せてきましたよ。新人君にこの数は荷が重いでしょう」

「そうかしら。まあ、お礼は言っておくわ、ダイナ」


 目に鮮やかな緑の機体が八機、編隊をなしてやってくる。そうなれば敵機もジャーグ一機に構ってはいられない。迎撃に散開する。


「邪魔だから、あんまり周りをぶんぶん飛び回るんじゃねえぞ。色が似てるんだから、間違って墜としちまっても知らねえからな!」

 そうは言うが、モニターには友軍機を示すように緑のターゲットで表されている。

「駄目よ、お兄ちゃん、そんなこと言っちゃ!」

「今度の新人君は活きが良いね。お姉さん、嫌いじゃないよ」

「油断するのはよしなさい、ミント。後ろ、来てるわよ」


 脇にビームカノンを差し入れて後方へと放つ。ジェットシールドで受けた敵機は、解除した途端に両手持ちの二射目が迫っているのに気付いたが遅く直撃を食らった。


「やるな。任せた」

 リューンはラウンダーテールを噴かして戦艦へと急行する。

「落とし前は付けさせてもらうぜ!」


 戦艦の対空砲火レーザーの隙間を搔い潜って一気に接近する。


   ◇      ◇      ◇


「さっさと墜とせ! 何をやってる!」

「ですが、直掩は全てXFiゼフィへの応戦で手一杯です、イルドラン艦長!」

 艦橋ブリッジは混沌としている。

「手前ぇ! 誰に喧嘩を売ったか教えてやるぜ!」


 共用回線からの声は少年の響きを持っている。失敗を覚った副官は諦めの溜息を吐いた。


   ◇      ◇      ◇


 アルミナ軍の戦艦は艦橋とエンジンに直撃を受けて爆沈した。

 残存した搭載機も数機は背中を見せて逃げていっている。後から現れた緑色のアームドスキンはそれを見てビームカノンを振って勝利を喜んでいる。


「はー、すっきりー。さ、新人君、案内してあげる。あたしたちのお家に」

「分かってるから、さっさと行け」


(女の尻を追い掛けるのはどうにも性に合わねえな)


 そんなことを考えながら、リューンはその背中を追ってアルミナの空を飛ぶ。




注) 次回更新は『ゼムナ戦記 神話の時代』第二話「フォア・アンジェ」になります。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る