破壊神のさだめ(後編)(5)
ザナストのアームドスキンは百近くを要塞防衛の直掩に据えるつもりらしい。それでも進発してきた部隊の総数は四百に達する。ほぼ全機を攻撃に振り向けた討伐艦隊側は三百に満たないのに。
「隊長、穴を開ければなんとかなる?」
ユーゴはスチュアートに問い掛ける。
「それとも崩しておかないと苦しい?」
「贅沢を言えば崩しておいてくれると助かるな。まあ、トランキオの動き次第で構わないぞ」
「高くつくよ」
軽口を織り交ぜる。
「だって、それで弾体ロッド二本使っちゃうんだからさ」
「おい、誰かユーゴにロッドを譲ってやってくれ。命の代金だとさ」
「安いよー」
メレーネが嬉々として乗ってきた。
慣性で飛ばせたまま機体を立て、フランカーを前方に指向させると仮想力場砲身を形成させる。弾体ロッドの重金属が一気に昇華されて砲身最奥部へと充填されていく。半ばイオン化した強結合プラズマが直径4mもの光芒と化して吐き出された。
ペダルを軽く爪先で叩いてパルスジェットを短く噴かせ、機体を回転させてブレイザーカノンで横薙ぎする。ジェットシールドで受けようとした敵機は瞬時に溶け落ちたシールドコアの向こうでビームの光の中に消えた。
躱そうとした機体も多いが末路はそう変わらない。ビームを取り巻いている衝撃波が誘引空間を生み出し、捲れるように引っ張られていく。最後は回転しながらビームに削られていき、爆炎を放って終わる。射線から全力で逃れた者だけがリヴェリオンの前に残っていた。
「崩してくれとは言ったが粉砕しろとは言ってないぞ」
少年の容赦ない攻撃を茶化す。
「大丈夫。お仕事はいっぱい残ってるよ」
「まあな。まだ嫌っていうほど居やがるしな」
「いいから、隊長。怯んでいるうちに稼ぎましょうよ!」
まるで舌なめずりしているかのような陽気な声音である。
「そんなに稼いでどうするんだ、メル?」
「あたしは将来お嫁さんに行くとき、理想的なお家が欲しいの!」
「なるほど。分からんでもないが、そんな調子だと理想的な男は尻尾を巻いて逃げていくと思うな」
指摘を受けたメレーネは「ひどーい!」と言いながらもイオンジェットを棚引かせている。
(嬉しいな。こんな僕でも気兼ねなく接してくれる人たちがいる。背中が軽くなったみたいだ)
フレアネルに急かされ、スチュアートやオリガンも敵部隊へと突入していく。
(心の傷みなんて感じている暇はない。皆の笑っていられる未来のために最後まで戦うんだ)
僚機の姿に闘志をたぎらせる。
(まずはお前が邪魔なんだよ、アクス!)
長い噴射光の尾を引く平べったい戦闘宇宙機へリヴェリオンを向ける。少年の気合いにカメラアイが金色の光を放った。
リヴェリオンの放った二本の光芒に数機のグエンダルが巻き込まれて爆砕するが、流線型の宇宙機は瞬時に加速し、ひらりと躱してしまう。やはり長距離からの狙撃で墜とせる相手ではない。
「そこか、
目的は気付かせることだ。
「もう、お前の相手も飽き飽きだよ。そろそろ決着つけない?」
「大人しく我が糧になる覚悟はできたということか?」
「いいや、忙しいから早めに済ませたいだけ」
錐揉みして転回した
「ほざけ!」
「それはもらうわけにはいかないね」
「散れ!」
咆哮と同時に大口径ビームが発射される。
カウンターでブレイザーカノンを撃つ。照準は甘いが掠めるだけで十分。光芒は互いを巻き込むように捻られぶつかり合い、空間を擾乱するほどのエネルギー球へと変わる。
「協定機を敵に回して正面から挑んでくる度胸だけは褒めてあげるよ」
「このトランキオは遺跡技術の塊らしい。つまり、お前の機体とそう差はないということだ。ならばパイロットの能力次第ではないか」
(それが僕に劣らない根拠だと思ってるんだ)
ユーゴには的外れに思える。
(だからバランスの悪い機体を渡されても平気で乗ってる。本当に優れた機体っていうのは、このリヴェリオンみたいに長時間運用してもパフォーマンスの落ちない機体のことだよ)
機能が洗練されているからこその冴えを見せる。
(誤解しているんならそのままでいいや。その隙、利用させてもらうね)
フランカーの弾体ロッドを換装しながら南天方向へと後ろ向きに飛ぶ。ブレイザーカノンでもなければ高集束ビームでもないフランカーショットをトランキオに向けて放つ。当然歪曲場に掴まって逸らされてしまった。
それでも油断を誘うかのようにフランカーショットを集める。フェイントなど何一つ混ぜない砲撃をただ集中させていった。
「そんな攻撃、いくらもらおうが無駄だと分からないのか?」
苛立ちを嘲りに変えてぶつけてくる。
「無理っぽいね」
「いつか掴み損ねると思っているのなら大間違いだ。もう、この機体の扱いは熟知した」
僅か0.5秒のカノンインターバルしかないフランカーを両門用いていれば途切れない砲撃が可能。連射を淡々と続けるユーゴにアクスは激し始めているようだ。
「いい加減にしろ!」
「もう少し付き合ってよ」
トランキオの背面から撃ち出される八門のビームも時間差で襲い掛かってきている。全てを躱しながら、狙い定めたビームをアクスの悪意に満ちた灯へと絶え間なく叩きつけていった。
(そろそろいい感じだね。ここまでくればあとはお任せで良いでしょ)
リヴェリオンは要塞の南天近くまで降りてきていた。
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