破壊神のさだめ(前編)(3)
討伐艦隊副司令の一人オルバ・オービットはエヴァーグリーンでの作戦会議の後、ラティーナの私室に招かれていた。私的な交流ではなく、内密な打ち合わせをしておくために残ったのである。
就役した最新大型戦艦ホーリーブライトの対策、つまり
レイオットからの指示を聞き終えた頃に折良く近衛艦隊の偵察艦からの通信が入る。その艦はホーリーブライトに先行して進路宙域を捜索しているはずだった。
「未だ発見には至っておりません。微かな痕跡らしきものは捉えられるのですが巧妙に隠密移動を続けているようです」
2D投映パネル内の艦長は苦渋に満ちた面持ちで報告する。
「広域重力場レーダーが影響しているのでしょう。捕捉するのは難しいかもしれませんが、潜伏場所を潰していくのにも意味があります。続けてください」
「そうですね。ホーリーブライトと接触させるのは得策ではないでしょう」
偵察艦が探索しているのは逃走した特務艦隊である。組織の拠点を軸に活動していると思われる艦隊を捕捉すれば秘密拠点を発見できるはずなのだ。
特務艦隊と視察団を接触させてはいけない。拠点で開発されているであろう武装を入手されれば包囲時に思わぬ抵抗を受ける可能性が少なくない。予防は必要である。
「警護の第二艦隊の目を誤魔化せるものかとも思うのですが」
二十隻を擁する第二艦隊を前に、特務艦隊の残存戦力が正面から接触するのは無理だろう。
「要塞迎撃宙域は氷塊環礁近傍を予定しています。そこに潜んでいればいつでも動かせる戦力になってしまいます。直接接触する必要はなく、配置するだけで機能するのです」
「氷塊環礁ですか。全体を監視するのは困難ですね」
衛星ツーラより低軌道を周回している氷塊環礁も大戦時の名残といえる。浄化作戦の氷塊の原料となった巨大氷塊を砕いた残りが短い帯状となって周回軌道に乗っているのだ。
資源利用もしているので徐々に縮小している氷塊環礁だが、元が膨大な量だっただけに未だ数個艦隊くらいは容易に飲み込んでしまう規模。しかも演習等に頻繁に利用されるために、常にターナ
「おびき寄せる罠には適しているだけデメリットには目を瞑らざるを得なかったの。それくらいの場を用意しないとホーリーブライトに距離を取られ、包囲作戦が失敗するかもしれなかったから」
慎重を期するだけに状況は余計に難しくなっている。
「環礁帯に侵入する前に補足できるよう努力します」
「ええ、位置が判明していれば処理のほうは近衛と第一の混成艦隊に任せればいいと考えていますから」
「無理しなくてもいいんじゃないかな?」
「無理するなってどういうこと?」
「刺激する必要は無いってこと。目前の敵だけでも大変だっていうのに、敵を増やしてもしものことがあれば無駄に消耗しちゃうんじゃない? それなら放置しておいたほうがいいと僕は思うよ」
ユーゴはわざわざ有事に
「普通に調査しても全容を掴めなかったからこそ、この好機を利用しようと考えているのだよ、クランブリット宙士」
オービットは言い聞かせるように告げる。
「だからって、あれもこれもと欲張っていたら片手落ちになるかもしれないよ。一つひとつ片付けていくのが順当だと思うんだけど」
「リスクを負わずに解決するような問題ではない。これは会長や司令官閣下、私も含めた全員の見解だ。君のそれは差し出口といえよう」
「オービット!」
冷厳な態度をラティーナに咎められる。
「しかし……」
「手厳しいなぁ。これじゃ助けてあげた甲斐がないや。少しは僕の言うことに耳を傾けてくれるかと思ったのに」
「君は私を懐柔するためにあの状況を利用したとでも言うのか?」
命を賭してエヴァーグリーンの盾となろうとしたオービットの救助に少年は言及している。貸しを返せと言っているかのようだ。
「そこまで意地悪は言わない。でも、全部やれって言われたら身が持たないよ。また倒れちゃうし」
ユーゴは苦笑しつつ言う。
「だから組織側の対応は我々だけで済むよう頭を悩ませているのではないか」
「そんなふうに言ってもさ、結局実際に働くのは前線のパイロットなんだよ。それを忘れてない?」
「憎まれ口なんてらしくないわ、ユーゴ。やめて」
辛抱堪らずといった感じでラティーナが制止する。
「君にやれとは言っていない。それとも何かね? 体力的に厳しいから今後はザナストとの戦闘でも手抜きするとでも言うのか?」
「オービットもやめなさい!」
「サーナを殺されたのを
その時見せたユーゴの気迫はオービットの背筋を凍らせるに足るものだった。
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