破壊神の秘密(7)

 最も欲していた情報が思わぬところから転がり込んできた。ラティーナは驚きと喜びで勢い込んでしまう。


「本当ですか!? 宇宙要塞はどこに?」

 ジーンは彼女の勢いに飲まれている。

「ご、ごめんね。正確な場所は知らされてないのよ。把握しているのはたぶん一部の艦橋ブリッジクルーだけ」

「拿捕します。情報の分析は?」

「終了しております。指示通り、追尾体勢に入ったようです」

 秘書官ジャクリーンが確認した。


 ジーンがエヴァーグリーンに着いてすぐにしたことは、特務艦アーセロイのこれまでの航路要素データの転送だった。それを分析すれば目的宙域が或る程度推定できる。


「それで、アーセロイの任務はご存じなのですかな?」

 フォリナンが核心に迫る。

「それがね……」

「失礼!」

 重要情報に興奮したのかロークレー艦長がカップを倒してしまい、飲み物が卓上に飛散する。その処理に室内の者は追われてしまった。

「では、改めて。任務内容をご存じのようですが?」

「実はそんなには詳しくないの。どうやら『破壊神の槍』というのを届けるのが任務らしいけど、それがどんな物でどういうふうに使用するものなのかはさっぱり」

「そうでしたか」

 一同は多少落胆するが、それは拿捕してから確かめればよいことだ。

「あれはプロト1のところへ届けるんでしょ? アームドスキンか武装かどっちかだと思うけど」

「あれ? それはご存じないんですね」

 ラティーナは情報の偏りに肩透かしを食らった気分になる。


 ズーマ・ラジのクレーターの戦闘でプロトタイプ1、トニオ・トルバインは撃墜・戦死したことを伝える。ジーンはちょっと目を丸くし、そのあと訝しげな顔になる。


「そう、ユーゴが討ったの……。じゃあ、あの兵器は誰に届けるために搬送しているのかな?」

 その疑問は当然だ。

「普通であればユーゴのところへ届けられるのが筋なのでしょうが、こちらは対立関係にあるので敵手の元へ届けられるのでしょうか?」

「おそらく、この動きも実験の一環でしょう。破壊神ナーザルクの創造、育成も実験的ならば、兵装も試験的なものが主なのではないかと思われます」

 オービットが状況に的確な想定をくわえる。

「何にせよ阻止せねばなりません。まずは拿捕に全力を尽くしましょう」


 ラティーナが締め括って聴取会は終了となった。内容が内容なので、皆が緊張した面持ちで席を立つ。すぐさま各艦に戻って特務艦の追跡を続行せねばならない。


「おば様」

 彼女は、息子に手を引かれて立ったジーンに声を掛ける。

「何?」

「一度父とは相談しますが、私の方針としてはどこに組織の手が入っているか分からないコレンティオではなく、討伐艦隊に身を置いていただくべきだと考えています。また結論が出次第お伝えしますのでゆっくりなさっていてください」

「ありがと。ラーナの成長具合もしっかり確認しとかないとね。育ての母としては」

 いたずらっぽい視線がラティーナの身体を舐める。

「もう、おば様ったら!」

「冗談はともかく、それだったら一機貸してくれない? わたしを遊ばせておくのは損失でしょ?」

「いえ、別に戦って……、そうですね、では最新鋭のアル・ゼノンを準備させましょう」

 止めようとしたが、彼女は動いていたい性分であるのを思い出す。

「それだったらアル・スピアにしてくれない? アル・ゼノンはパワーはあるけど少しだけ重いのよ。わたしにはアル・スピアのほうが性に合うわ」

「分かりました。では格納庫ハンガーに」


 往年の名パイロットが瞳を輝かせていた。


   ◇      ◇      ◇


 輝線で描かれた3Dアバター、ユーゴのチルチルとラティーナのサミルが、自分のポランと手を繋いで満面の笑みを浮かべている。それを見るとジーンはラティーナもまだ彼女を母のように慕ってくれているのだなと実感が湧いてくる。


(わたしが停滞の中でもがいていた間にこの子たちは成長を続けていたんだな。関係性は変わらなくとも、いずれは二人とも巣立っていく。そんな遠くない未来だわね)

 そんな感慨に捉われていた。


「ヴィーン、来なさい」

 スキンスーツに工具ベストを羽織っただけの金髪の青年が泳ぐようにやってくる。

「何ですか、プリンセス? リヴェリオンの担当変更なら喜んで!」

「嫌だ!」

「はうっ! つれないなぁ……」

 息子の腰が引けている。数少ない、息子が苦手とするタイプのようだ。


(ふふ、珍しい。面白そうな子なのにね)

 目配りが、人間より機械を愛する者のそれだ。ジーンは嫌いではない。


「アル・スピアの予備機を出して仕上げておきなさい。疾風しっぷうの異名を持つ方が乗るのよ。そのつもりで」

 首を傾げている。この世代には自分の二つ名は通用しないかもしれない。

「よく分かりませんが、機動性に優れた機体ですから特に必要性は認められませんが?」

「いらっしゃい、坊や」

 ジーンは手招きする。


 同じくらいの身長の整備士の男の顎に手を添えて、くいと持ち上げる。蠱惑的に細めた灰色の瞳で、彼の茶色い瞳の奥を覗き込む。


「わたしが乗ってあげるのよ。いいから、あなたの全ての力を注ぎなさい。きっと後悔させないわ」

「あ……、あい、ママン!」

 背筋の伸びた綺麗な敬礼を返してきた。

「いい子ね。良い仕事をする子は大好きよ」

「僕の最高傑作をママンに捧げます!」


 見たことはないだろうジーンの一面に、ユーゴとラティーナは呆然としていた。

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