戦う意味(9)
レーザーは光速、回避しようとして回避できるものではない。だが、反物質生成用の超高出力レーザーは横を通過していき、討伐艦隊は如何なる損害も受けていなかった。
「……狙いを外したのでしょうか?」
ラティーナはザナストの意図がプラントのレーザーによる艦隊撃破だと思っていた。
「違います。これは……、この射線はツーラを狙っている!」
「直ちに計算しろ! どこに到達する!?」
オービットが絶叫し、フォリナンでさえ動揺して声を張り上げている。
反物質生成プラントのレーザーはそのまま射出されているのではない。惑星公転面に配置されているので、そのまま放射すれば星系の天体を焼いてしまう。なので、筒状構造の反対側には散乱用重力レンズが配置されている。
機能上、プラントは恒星に正対させねばならない。建造した上で公転軌道へ投入するのも惑星公転面を外すのは技術的に困難な理由からこういう構造になっている。
「到達点、計算出来ました! 外れています!」
安堵の吐息が漏れる。どの艦の計算結果も同様だった。
「ですが、このまま公転すると二十三分後にツーラを横切ります! しゃ、射線上にコレンティオが!」
「なっ!」
「レーザー到達まで一分十七秒!」
プラントからツーラまでの距離だとレーザーは二分三十八秒で到達する。一分強でコレンティオからも観測されるだろう。
「そんな、あり得ない……」
「ジャッキー?」
「レーザーだけ射出されるはずがないんです」
彼女の背後に控えていたジャクリーンが事実を告げる。
こういった事故は当然予想されていると、元は技術畑の彼女は語った。
無論、散乱レンズが機能していない状態で集束レンズが発生しないようソフトウェア的な制限が掛かっている。それだけでは安全面で不安が残るので、幾重にも安全措置が採られているのだそうだ。
レンズの動力ラインは散乱レンズ側へと繋げられ、稼働した状態でなくては集束レンズ側へは供給されない構造になっている。そのハードウェア的な措置が最終安全弁になっている。
「だからレーザーが散乱レンズの形成リングを焼くなんてあり得ないんです」
しかし、実際に焼損してしまい、散乱させる術を失ってしまった。
「バイパスを作った? いえ、形成リングが破壊されたのだから動力ラインも切れたはず」
「そうか! 集束レンズ形成リングへ直接動力を繋げたんです、閣下。ザナストはその改造を施して、コレンティオを超高出力レーザーで狙撃するためにここに駐留していたのですよ」
通信パネル内のオービットが敵の意図を看破する。いかんせん手遅れだ。
「じゃあ、後付けで繋げた動力ラインを破損させれば集束レンズは機能停止するのよね?」
「そうです。探して切れば止まります」
「陸戦隊に命令を! 直ちに恒星側へと進撃し、動力ラインを探索、切断しなさい!」
◇ ◇ ◇
「おいおいおいおい! 上がるとか言ってる場合じゃないぞ、ビル! こいつはオレたちがしくじったらコレンティオが壊滅だ!」
陸戦隊長フリスタンは青褪める。
「とりあえず前進だ! 急げ!」
「待てって。無闇に行動したって重力レンズに繋がるケーブルなんて見つからん。探す方法はないのか?」
二十分以内に動力を切らないとレーザーはコレンティオを横切ってしまう。到達に二分三十八秒。その時間がマイナスされるのだ。
直接焼かれる被害者は少ないだろうが、都市を覆う天蓋は損壊し空気が吸い出される。スキンスーツも無しに宇宙に放り出される人と、酸欠で死ぬ人で都市は壊滅する。
「ゼムナの遺志がシステムのブロックを外してくれた。警戒カメラ映像を調べるから待て」
技術士の一人がそう訴える。
「悠長に一つひとつ画面を確認している暇はないぞ!」
「重力レンズを稼働させるには相応の出力が必要だ。ケーブルは必ず対消滅炉から直接繋がっている。周辺から調べればいい」
「なるほどな。それは移動しながらできるか? まずは対消滅炉を目指すぞ」
別の技術士が調査に集中する同僚を両脇から支えて移動を始める。
幸い、プラント内は0.1G。移動に走り回る必要はない。通路を跳ね飛びながら突入隊は移動する。
「だっ!」
しかし、対消滅炉付近まで行くと敵工作員と遭遇してしまい、レーザーライフルの掃射を受ける。
「くそ! やっぱり待ち伏せていやがったな。奴ら、ここを死守するつもりだぞ」
「それらしいケーブルはあの向こうだ。どうする?」
「どうするって、突破するしかない! あんたらは別のルートを探してくれ」
銃撃戦の背後で技術士たちは総がかりでルート検索を始めた。
(こいつはヤバいかもしれない)
フリスタンの背筋を嫌な汗が滴る。
◇ ◇ ◇
「ツーラ近傍で高エネルギー反応を確認した。何が起こっている?」
「申し訳ありません、お父様! 状況把握と対策検討で目いっぱいの状態で通報が遅れました。それは奪取された第2恒星プラントのレーザーです。現在、停止させる作戦を実行しています」
「このままだとコレンティオを通過するな」
交信と同時に通信士が情報も送っている。
「かと言って、時間的にこれから警報を出してもパニックが起こる。ザナストは対応が不可能になるこの機を狙っていたようだ。仕方ない。第2プラントの破壊を許可する」
「それができないのです。内部に陸戦隊を含めた百三十五名が突入し、撤収不可の状態で取り残されているんです。必ず停止させますので」
「そうか。任せるが、レーザーがツーラの地表に到達する十分後までに停止させられなければ私の責任で破壊を命じるからそのつもりでいなさい」
父親の決断にラティーナは頷かざるを得なかった。
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