戦う意味(10)

 交差させたブレードで敵機の放つ突きを上へと滑らせる。フランカーが脇を通して回転し、出力を絞ったビームでコクピットを貫く。可能ならば対消滅炉エンジンを誘爆させるのも避けなくてはならない。


「突入した部隊が足留めを食らっているの?」

 ユーゴも状況は把握している。

『内部の敵と交戦中らしい。動力切断に手間取っている』

「ビームで集束リングを破壊できない?」

『一部を破壊しても機能停止はすまい。あれだけ大きな構造物だ』


 集束リングは直径500m。ビームで貫いた程度では全体の機能低下は見込めないようだ。


『これだけの敵機と交戦しつつリングを停止させるだけのダメージを与えるのは時間的に難しいだろう』

 プラント近傍には未だ百機以上の敵機が防衛戦に徹している。

「ブレイザーカノンで一気に破壊するのは?」

『重力リングが展開されている。一部でも歪曲して本体を破損させれば反物質が対消滅反応を起こし、全体が誘爆するかもしれん』

「じゃあ、リングに繋がっているケーブルを直接切ろう。探して、リヴェル」

 それしかなさそうだと少年は決意する。

『待つがよい』


 敵の多い集束リング側へとリヴェリオンで向かう。敵アームドスキン隊もリングを破壊させないよう恒星ウォノ側に展開していた。


「来たな、小僧」

 σシグマ・ルーンのスピーカーから聞き慣れた声。

「アクス・アチェス! ここに!?」

「貴様が来るのは計算のうちだ。引導を渡してやろう」

「お前には……、え、その機体?」


 接近してくる鈍色の機体には見覚えがない。モニターにもコード名が表示されず、識別は敵機の赤ながら不明機となっている。

 しかし、そのフォルムや構造には忘れがたい印象がある。頭部は透過性金属で形作られ、その内部にカメラを始めとしたセンサー類が配置され、太く逞しさを感じさせる四肢は丸みのある装甲で覆われている。そして推進機ラウンダーテールには固定砲口までもが切られていた。


「ナゼル・アシュー?」

 似ているがどこか違う。

「違うな。この機体は『ナストバル』。あのナーザルク専用機の技術を導入して開発されたアームドスキンだ。貴様らは愚かにも我らを強くしてくれる」

「強いものか! それは人の命を吸い取るアームドスキンなんだぞ!」

「笑わせるな。そんなものは存在しない。我が手足となって動く道具にすぎん!」


 アクスの言動で、ザナスト側の首脳部も或る程度の事情を把握しているのだと分かる。それも当然か。あの組織と通じているからこそトニオは送り込まれたし、資材や技術も流れているのだ。


「貴様が何であろうが劣りはせんぞ」

 テールカノンが咆哮する。放たれたビームはフィメイラやナゼル・アシューのそれより口径が大きいようだった。

「今はお前の相手をしている暇なんてないんだ! 通してもらう!」

「させんと言っている。コレンティオに死が蔓延するのをそこで指を咥えて見ているがいい」


 ナストバルの放つ横薙ぎに左のブレードを叩きつける。パワー負けはしない。還元した重金属粒子が派手な火花を散らして空間を彩る。

 だが、フィットバー操縦桿から返ってくるアクションフィードバックは強い。ユーゴは直感型で、弱めに調整していてもそれだけなのだ。もしかしたらパワーだけならナゼル・アシュー以上かもしれない。


「そんなものを……!」

 批判の思いは途中で消える。原因を作ったのは正面の敵ではなく自分の背後。ぶつける相手を間違っているような気もする。それでも数多くの人命が懸かっているなら退くわけにはいかない。


『見つけたぞ。北天方向だ』

 リヴェルのアバターはプラントの上方を示す。

「ありがと! この敵を退けないと」

『あと八分だ。急ぐがいい』

「分かってるけど!」

 容易な敵ではない。


 斬り落としは受けられ、前蹴りが放たれる。回転して躱し、その勢いのままにブレードを薙ぐが姿勢制御用のパルスジェットの光を斬り裂くだけに留まる。相手が退いた隙に機体をプラントへと向けるがアクスは追い縋ってきた。


「逃がさん」

「邪魔なんだよ!」


 十字に走った閃光を右のブレードで弾き飛ばし、左の突きを飛ばす。絡めて外に逸らされたところへ、左右のフランカーを指向させた。反射的にアクスは回避機動を取るが、ユーゴは発射せずに元の位置に格納。機体をひるがえしてプラントの上方へと加速した。


「汚いぞ」

「何とでも言え!」


 集束リングの基部へとリヴェリオンを向け、エアロックを探す。内部に侵入しなくてはケーブルを切れない。


(有った! もう時間があまり無い。相手してられないよ)

 反転させると、フランカーショットを連射して迫るナストバルを牽制する。


「リヴェル、お願い!」

『よいぞ。任せよ』


 取り付いたユーゴはコクピットを出てエアロックへと泳いだ。


   ◇      ◇      ◇


(ちっ! 取り付かれたか)

 アクスは鼻に皺を寄せて悔いる。

(あの程度のフェイントに掛かるなど!)

 苛立たしいが、あそこで身体が反応せねば生き残ってはいない。


「機体を置いていくならば破壊させてもらう!」

 ブレードを閃かせて接近する。

「くっ!」

 ところが白いアームドスキンは反転すると再び固定武装を発射して牽制してきた。


(これが協定機だというのか? 小僧が操っているのか、件の『遺志』が操っているのか知らんが厄介だな)

 パイロットの小さな身体はもうエアロックの中だ。

(ならば直接阻止するまで)


 アクスは別のエアロックへ向けてペダルを踏み込んだ。

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