協定者(10)
この全体演習ではそれほど前面に出る気がない。ラティーナやフォリナンにも加減するよう言われており、ユーゴ自身もこれはチーム戦だから連携を重視すべきだと考えていたからだ。
「フランカー、カットできる? 無意識に反応しそう」
自分の
『バランス制御もある。機能停止はしないが発射不可能に設定した』
「うん、ありがと」
ショルダーユニットから大腿の裏まで伸びる大型の機構である。フランカーの可動まで制限すれば機体バランス制御が困難になるらしい。
一応、素材ロッドもヘリウムリキッドのものに換装はしてある。ただ、出力からして装甲表面を焼いてしまいそうな感じがする。整備士の手を煩わせたくない。
新型のアル・ゼノンにもブレストカノンという固定兵装が装備されているが、それもロウワービームに設定変更されていたのでおそらく撃ってくるだろう。正面に位置する時は要注意だと頭に入れておく。
「ぶちかますぞ! あっちが総数100でこっちが75でも関係ない! 実戦部隊の本気を見せてやれ!」
スチュアートが発破をかける。
「やっちゃうよー。今回はお金にならないけど」
「殊勲者には特別ボーナスあるかもしれないぜ」
「ほんと!?」
メレーネが身を乗り出す。
「そのくらいのつもりでいけ」
「嘘なの? はー、テンション下がるー」
軽口で雰囲気を和ませている。強敵だという意識と対抗意識。どちらも過ぎれば身体を固くさせる。一部の操縦を反射に頼るアームドスキン戦闘において、決して有利には働かない。高めるのは闘志だけでいい。
「では、始め!」
アル・ティミスで観戦する司令官ラティーナの号令で戦闘が開始される。
オレンジと白の機体が後退した中央へとフォア・アンジェ部隊と正規軍部隊が雪崩れ込んでいった。
演習慣れした正規軍部隊は言い表しがたい動きを見せる。強いていえば整然と乱戦に持ち込んだというのが近いだろうか?
二~四機編隊が崩れることなく敵味方と入り混じる。フォア・アンジェのように命懸けで叩き込まれた絆を感じさせず、システマチックに洗練された連携。
「やはりそう来るかよ」
予想の当たったスチュアートがこぼす。
「四機編隊が3! 全戦力の八分の一をこっちに割いてくれるって」
「狙いは間違いなくリヴェリオン!」
メレーネとフレアネルもその動きに納得する。
正規軍サイドとしては演習で負けるわけにはいかない。勝ちを呼び込む第一段階として、不確定性の高い脅威である協定者を狙う。早い段階でリタイヤさせられれば、その後は計算ができるようになる。
それはスチュアートも想定していて、彼とオリガン、メレーネ、フレアネルといったユーゴとの連携に慣れているメンバーで編隊を組む。そのうえで少年を中心に、罠に掛けようとしているのだ。
「来ますよ。まずは分断狙い」
オリガンも相手の狙いを見定める。
「パターン3だ。ユーゴは裏へ」
「了解」
砲撃がユーゴを除いた四機に集中する。撃破狙いでなく分散させるのが目的。彼を孤立させて集中攻撃するつもりなのだ。
(上手い。けど、簡単にはさせない)
引き込むように足下へとリヴェリオンを後退させる。
二つの編隊がスチュアートペアとメレーネペアを押し下げ、残り一つが散開しつつユーゴを追ってくる。包囲されないよう、するりと反転加速したリヴェリオンは切り離されたかのように見えるだろう。
「このまま追い詰めろ」
編隊のリーダーが圧力を掛ける意図で共用回線へと指示を流す。
「結局逃げるだけか」
「そう言ってやるな。我らの狙いの正確さはこれまでの相手とは一味違うということだ」
「仕留めきれそうよ」
機体を揺らす程度の速度でビームを躱し続ける少年を余裕がないのだと判断したようだ。
「攻め続けろ。包囲する。……味方!?」
「撃つな!」
追い詰めていたつもりが、リヴェリオンの背後に味方を確認する。メレーネペアを追っている編隊だ。
ユーゴは急に右のビームカノンを肩越しに背後へと向け一射。すぐに正面へと砲口を向けて牽制すると左でも背後を狙う。
「なんで撃墜判定なんだ!」
「どこから撃たれた?」
狙撃を受けた二機が撃墜判定。
「ユーゴくん、上手!」
「見事だ、少年」
動揺の走った残り二機も二人によって撃破される。
メレーネペアとスチュアートペアはリヴェリオンからあまり離れ過ぎない位置へと、それぞれが相対する編隊を誘導していたのだ。そこへ裏へと回ったユーゴが意表を突いて狙撃する。接近警報の鳴らない位置からの砲撃は容易に命中したのだ。
「もう一つ」
今度はスチュアートペアへと向き直る。
「やらせて堪るか!」
「君たちの相手はあたし!」
急速接近したメレーネとフレアネルの牽制で阻止できず、四機のうち三機までもが背後からの狙撃で動作停止する。結果として無傷の五機と対峙する四機編隊。言わずもがなの結論が出てしまった。
全体としては数の差が出てフォア・アンジェ側も撃墜数がかさみ、制限時間内での残機数で敗北とされる。しかし、元からあった二十五機の差は数機にまで縮まり、惜敗といえる結果。
正規軍側はフォア・アンジェ隊の健闘を讃える。負けても悔しがりながら笑い合う奇妙なお祭り部隊の様子に、自然と口元が緩む正規軍パイロットたちであった。
「これで良かったのかな?」
『あの娘の思惑通りであろうな』
肩に座っているリヴェルの口元も緩んでいる。
彼にとって自分たちは興味を惹かれる存在なのだろうかとユーゴは思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます