フィメイラ(10)
ラティーナは薄い水色のドレスに身を包み、その時を待っていた。
宇宙港で引き離されてからは一度もユーゴには会えていない。それどころか外出さえままならない状況にある。
試験移住地で起こったことは確かに両親に危機感を覚えさせただろう。しかし、これほどに拘束されるとは思っていなかった。ともに暮らしていた九歳までは案外自由にさせてもらっていたのである。
いくつかの習い事はこなしていたが普通の学校に通い、友人と街に遊びに行くのもそんなに珍しいことではなかった。
それが今は半ば軟禁状態である。両親は何をそんなに怖れているのであろうか? 勢力を拡大させているザナストではあるが、このコレンティオまで戦闘員を送り込んでくる力は無いと思われる。
ただ、今夜は自由になれる。祝賀会への参加が認められているからだ。
両親は開催を渋ったのである。サディナのことがあったから。しかし、取り巻く側近たちにしてみれば、大きな災禍に見舞われた移住地を逃れ、更にザナスト艦隊の猛追からも無事に帰還した彼女の無事な顔を皆に見せるべきだと主張して納得させた。
そこにはラティーナの保護に貢献したレクスチーヌのクルーも招待されている。当然、ユーゴもその中にいるはずだ。こんな好機は他にない。彼女は決意を胸に秘めてその場に挑もうとしている。
(絶対にユーゴをあのアームドスキンから切り離すの)
フィメイラの正体が少し掴めたあの後、エックネン整備班長が奇妙なことを言い出したのである。「発進時に、頭部のルビーレッドに金色の紋章のようなものが浮かび上がった」と。
ペリーヌに頼んで神話に関して調べてもらった。そして、
(あれは危険な機体。あんなものに乗せはしない)
ラティーナはそう誓っているのである。
◇ ◇ ◇
祝賀会の会場には間違いなく見知った顔が含まれている。ボッホ艦長とベルンスト副艦長は礼装用軍服を纏っているが、他のクルーはスキンスーツに礼装コートを羽織っているだけである。
スーツやドレスの社交界の人々に混じって、その姿は浮いて見えた。申し訳無いとは思いながらも目立ってくれるのは好都合だとラティーナは思っている。
「ほら、あの子よ、お母様」
ひと際小柄な栗色の髪の少年が混じっているのを示す。
「まあ、愛らしい。本当に彼があなたを守り続けてくれたの?」
「そう、私、ユーゴが居なかったらここには生きて戻れなかったわ」
少し大袈裟に告げる。
「だからお願いを聞いて。まずは引き取ってほしいの。すぐにとは言わないから、いずれは養子縁組して家族に加えたいと思ってる。それくらいしないと恩返しできないから」
「そうね。それはお父様がお話ししてくださるわ」
しばらくして場が落ち着いた頃になると艦長のフォリナンが挨拶にくる。
「今日はお招きに与かり光栄に思います」
「気にしないでくれたまえ。礼には足りないくらいだ」
敬礼を送る艦長に父が応じている。
「娘も感謝しているだろう」
「正確にはラティーナ・R・ボードウィン嬢でしたな。艦内での無礼はどうかお許し願いたい」
彼女は母の旧姓のほうを名乗っていたのだ。
「とんでもありません。艦長には本当によくしていただきました」
「ご無事にお送りできて安堵しております」
ラティーナは後ろに居並ぶ面々のほうへ目をやり、手を差し出した。
「ユーゴ」
ところが、前に出てきた彼は両膝をつき、頭を絨毯に擦りつけて謝り始める。
「すみませんでした。僕はサーナを……、サディナお嬢様をお守りできませんでした。ご両親のもとへ無事にお送りしなくてはいけなかったのに、それができる位置にいたのに、手を放してしまった。飛び込んで代わりになる勇気が持てなかった。……どうか好きなだけ罵ってください」
「そんな!」
駆け寄ったラティーナは抱き起こそうとする。
「ユーゴが悪いんではないの! 彼に罪はないと言ってください。お父様!」
「ああ、あれは事故だ。君を咎めるつもりなどありはしない。そんな恰好はやめたまえ。余計に娘が苦しんでしまう」
「はい、ありがとうございます」
それから、少し話す時間が取れた。ラティーナは父を盗み見ていたが、なかなか話を切り出してはくれない。そのうちに、別の招待客が挨拶に来てしまい、その対応に追われる。彼女は主賓なのだ。
焦りを感じながら再び会場内を見回すが、レクスチーヌクルーの姿はない。驚いて探し回るもどこにも居なかった。
「どうして、ユーゴ!」
悲痛な叫びは少年には届かない。
◇ ◇ ◇
「いいのかな、お嬢様を置いていって」
メレーネがユーゴの肩をつつきながら問い掛けてくる。
「いいんだ。ここがラーナの居場所なんだから」
「だからってあたしたちに付いてこなくたっていいんだよ?」
少年ははっきりと首を振る。
「僕は
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