フィメイラ(7)
「では、アームドスキンの検証のほうに立ち返ろうではないか?」
艦長のフォリナンが建設的な意見を投じる。
「そうですわね。フィメイラという機体、あのアクス・アチェスを撃退して見せましたが、アル・スピアより大きく勝る性能を持っているのですか?」
「ざっくりと見ただけですけど、実はそれほどでもないんです」
手を挙げて答えたのはペリーヌである。
「
「少し噛み砕いて説明して」
深い技術的なことに顔を顰めたマルチナは捕捉を要求する。
インパルスジェネレイターはアームドスキンの全身の四割ほどの主要な関節に取り付けられている。そこからの信号は
機体同調器は、σ・ルーンが学習した動作パターンと解析機の処理結果を統合して、パイロットが要求する動作を機体が行うように調整しているのだ。
ところがフィメイラでは全ての関節にインパルスジェネレイターが取り付けられていて、解析機の処理結果がそのままパイロットへと送られていると言う。
「普通はそれだけの情報量をパイロットは処理できないんです」
ペリーヌにとっては常識らしい。
「だから遺跡技術であるσ・ルーンに合わせて機体同調器が開発され、今の形に落ち着いたんです。なのにフィメイラはユーゴくんに機体の動作そのものを渡しているんです」
「彼はその情報量を処理できるという意味ね?」
「たぶんですけど。それで27番機の駆動データを改めて見直してみたんです」
少し口が重たげだ。
「どうやらアクションフィードバックで機体の動作を十分に感じられなかった彼は、瞬時にσ・ルーンから信号を出していたようです。既に動いている機体に重複命令が出された機体同調器は統合し切れずに信号をキャンセルしていました。それが重なって、一つの動作から次の動作への移行がスムーズに行われない結果、ユーゴくんの思い通りに動かないという事態が生じていたようです」
「彼のσ・ルーンとの異常な適合力が生んだ状態という理解でいい?」
彼女は頷く。
「でも、普通のパイロットはそのシステムでもアームドスキンを動かせているのでしょう?」
「そりゃ慣れですよ、副艦長」
スチュアートがパイロットの立場で教えてくれる。
通常、パイロットは機体の慣熟訓練をする。その過程でそれぞれの動作を感じ取り、これで動いているという感覚を身に染み付けるのだそうだ。
「それだと彼はフィメイラのようなアームドスキンなら慣熟抜きでも動かせると?」
マルチナは推測を口にした。
「実際にやってみせたじゃないですか」
「逆にアル・スピアのような機体には合わないパイロットということになるわ」
「そうだろう。そして、そんな彼の特性を理解している人間が居て、フィメイラを送ってきたということだ」
フォリナンが結論付ける。
それは、その場にいる人間を心胆寒からしめる推測だった。
「彼は何者?」
つい、そんな言葉を紡いでしまう。
「あの子はそんな変な子じゃありません! 普通の優しい子なんです! アームドスキンが彼を変えてしまう……」
「そんな意味ではないのよ。落ち着いて、ラティーナさん」
誤魔化すように話題を変える。
「ハード的にはどんな感じなのかしら、エックネン整備班長」
「どうって言われても、構造的には変わらんぞ。ただ、図面が本当ならいささか面倒な精度が要求されてるってくらいだ。設計的にはむしろ古臭い」
顎を擦りながら続ける。
「設計思想的には突飛としか言えんがな」
彼も顔の無いアームドスキンは初めてのようだ。そこに言及して、メンテナンス性の悪さは指摘してくる。
「同梱されていた予備パーツも結構古い規格に従っているように見える。製造番号も最近じゃとんと見掛けねえ方式のもんばっかりだぜ」
皆が眉を顰める。それが事実なら新型機ではないように思えるからだ。
「待って、班長。型番と製造番号は記録してある? そこからどこで製造したものか辿れない?」
「そう言われりゃそうなんだがよ、生憎と型番は全部消してあるときてる」
それで口に出しかねていたらしい。
エックネンは自分のタブレットを翳して見せる。拾い集めたデータは、アルファベットと数字の羅列である製造番号と、もう一つは機体開発番号らしきものだった。
「『ASNZ01T2』。これがフィメイラの機体形式」
機体コード「フィメイラ」ではなく、本来の機体型式番号である。
「これで調べられない?」
「出ませんって」
ペリーヌが即答。2Dコンソールでも表示された機体型式はとうに調べてあった。
「無理なのね」
「製造番号がそれなりの数あるのなら出るかも?」
割り込んできたのはオペレーター席にいたリムニーの声だった。
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