フィメイラ(5)
アクスには敵艦レクスチーヌを沈める気はない。この中には目標とされているあの少女が乗っているはずなのだ。残った直掩一機を墜とし、戦闘不能になるくらい痛めつけてから差し出させるつもりだった。
(それに、あの小僧が逃げ込んでいるはず。出てくるなら撃墜してからだ)
明らかに圧倒していた。既に勝負は付いている。
(エオドラッドとアンデューズが移動している。陸戦隊を乗り込ませて確保する気だな。その前に手柄はいただいておこう)
二隻の戦艦がゴート本星寄りに戦闘宙域を迂回しつつ敵艦に接近しているのがモニターでも確認できる。
「直掩を黙らせる」
ビームカノンを構えて加速する。
「させないよ!」
「なんだと?」
敵艦から鮮やかな黄色のアームドスキンが発進してきた。
「この期に及んで新型? しかも小僧か!」
「お前みたいな奴にラーナの船を!」
邪魔が入ったが、彼にとっては好都合と思えて口元が笑みに歪んだ。
◇ ◇ ◇
(軽い! なに?)
腕のフィットバーの応答などはむしろアル・スピアのほうが鋭敏だったと思える。だが、
(なら、これは?)
フィメイラの背部、両肩の後ろから大腿の裏くらいまで先細りに伸びている二本の
(躱された。出力高め。カノンインターバルは二秒)
ビームが少し太く見えたのと、2Dコンソールでカウントダウンを始めた表示に目を走らせて確認する。
(使いどころに気をつけなきゃ)
一体型だけに砲身冷却には間違いが無いよう配慮されているらしい。それでも、銃器型ビームカノンを両手持ちにして、このテールカノンまで有効に使えば間断ない砲撃も可能になるだろう。
「試すまで!」
今度は右のテールカノンを発射。回避を見極めて右手のビームカノンで狙撃して誘導すると、新たに左手に持たせたビームカノンで狙うとアクス機は堪らずジェットシールドで弾いた。
「俺にジェットシールドを使わせるなぁー!」
共用無線から威圧するような叫びが響いてくる。
「知ったことじゃない!」
「大人しく堕ちろ!」
「勝手なことばかり言う大人こそ堕ちろよ!」
左のテールカノンを向けると機体を滑らせて躱そうとする。その時には、左手はブレードグリップに持ち替えている。全ての動作が円滑で俊敏だ。とても先ほどまで乗っていたアームドスキンと同じ構造を持っているとは思えないほどに。
ブレード同士が噛み合うと、重金属イオン同士がぶつかり合って火花を散らす。高熱を持つ微細な金属片に還元してしまっているのだ。
無音の宇宙空間でも、腕を通して伝わる振動が衝突音としてコクピットまで伝わる。それがぶつかり合う力の大きさを象徴しているかのようだ。
「このホリアンダルと同等のパワーだと? その新型、侮れんな」
まるで試しに斬りつけているのだと思わせる。
「我が戦果に十分だ!」
「そんなものになってやらない!」
(試しているのはそっちだけじゃない)
ユーゴはフィメイラの反応がどれほど速いか感じられてきた。
(これなら紙一重の攻撃だって)
アル・スピアではできなかったことができると感じられる。
ブレードの軌道を見ながら機体を下降させる。カメラ横まで迫ったビーム噴流をぎりぎりで躱そうと試みる。ルビーレッドの透過金属の頭部からは四本のアンテナが伸びていた。頭頂に近い長い二本を掠めるさせるように避けてペダルを軽く踏む。
懐に入ってビームカノンの砲口を胸の真ん中に合わせてトリガーを絞る。が、咄嗟に機動したホリアンダルは右に横滑りさせている。ビームが穿ったのは左肩だけだったが、腕は回転しながら吹き飛んでいった。
「小僧ぉー!」
「うるさいよ!」
突き出されるカノンの砲口を左手の甲で逸らすとビームは明後日の方向へと飛び去っていく。右肘を打ち付けて揺らし、反動で離れる敵機へと斬撃を放つ。袈裟に斬り落とすと溶解した切り口が刻まれた。
中からガスの噴出が見える。コクピットシェルまで達したのだろうが、未だ諦めないアクスはビームカノンを向けてくる。素早く後退しつつ砲口を向け合って互いに一射。交差するビームは、一方はフィメイラのジェットシールドで弾かれ、一方はビームカノンを撃ち抜いて誘爆させた。
「ぐうぅおー!」
無念の叫びを発しつつホリアンダルは後退を始める。左右のテールカノンで狙撃を加えたが、本気で逃げに掛かっている相手には当たらない。
「許さんからなー!」
「こっちの台詞。でも追わないよ」
撃退できればいいのだ。
戦艦が一隻、突出してきている。直掩を斬り裂いて進むと甲板に一撃、艦橋に一撃を加えて、抜け様に両門のテールカノンでエンジンを撃ち抜く。
巨大な閃光へと変わる戦艦を尻目に、レクスチーヌの防衛へとフィメイラを向かわせた。
間を置かず、ザナスト側の撤退命令が追撃無用とばかりに共用無線で放たれた。
◇ ◇ ◇
「勝った……」
緊張から解き放たれたようにマルチナが呟くのが聞こえる。続いて艦橋に歓声が沸き起こる。
「ありがとう、ユーゴ」
リムニーは黄色いアームドスキンの背中に、心からの感謝を込めてそっと告げた。
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