フィメイラ(3)
ユーゴの目に光の舞う戦場が映る。既に戦闘光も確認できるが、彼の見えているものはビームや
彼がすべきなのは、その一つひとつを絶っていくこと。知らない光に向けて両手に持たせたビームカノンの砲口を突き出す。
また一つ灯を消し去った。地獄に堕ちる覚悟などとうに済ませてある。今は愛しい人の灯が絶たれないよう、魂を削り続けるのみである。
「居たな、小僧!」
傲慢な響きを持つ声が意識を刺激してくる。
「今日は逃がさん!」
「どうしてそんなに僕にこだわるの、アクス・アチェス! こんな悲しい場所で!」
「勝たねばならん。負ければ我が格が下がる」
鈍色の機体から流れてくる言葉の意味が解らない。
「負けたら死ぬだけだよ」
「ここはそんな単純な場所ではない。後れを取ればパイロットとして足元を掬われる」
「まさか、人の命を踏み台にして自分を?」
出世のためだけにあの光を絶ち続けてきたと言うのだろうか?
ビームをジェットシールドで斜めに逸らせ、その向こうに見える光に向けてトリガーを落とす。シールドの光で死角のはずの場所で狙撃されたアクスの鈍色の機体は、それでも紙一重で躱し加速する。
様子を窺うように足下を移動する別の敵機の光に左のビームカノンを向け、不意打ちを受ける前にすかさず砲撃。閃光を確認もせずにカノンをラッチに戻して、肩のビームブレードを抜く。迫るアクスの斬撃を弾いたら機体を寝かせるようにして
「ザナストは復権を願っているって聞いた!」
気になって聞いて回ったのだ。
「それは最終目標だ。その時に俺が中心に居なければどれだけの意味がある?」
「そんなことの為に大勢殺してきたと?」
「これからもな!」
ターナ
「勝手な理屈を!」
熱情が頭に駆け上ってくる。
「これが欲望だ。人はそれを糧にこれほどまでに発展してきた。俺こそが人らしい人だろう?」
「そんなのには食われちゃうんだよ! もっと優しく生きられる!」
「子供の夢物語で語れるほど世の中は甘くない!」
「そうかもしれないけど!」
認められない。
レクスチーヌのほうだけは背負わないようにしつつ、後退しながら砲撃を躱し続ける。また機体が重たい感じが湧き上がりつつあった。
ぎりぎりで躱そうとするのは危険だと思う。しかし、怖れていては追い込まれていくだけにも思える。
(勝負をかけないと時間の問題)
熱い言葉が口を吐くも、冷静に計算している自分を不思議に思う。
右手のビームカノンにプラグを接続してフルチャージを待つ。左の牽制砲撃は容易く躱されている。左のカノンインターバルに右のカノンを向ける振りをしてアクス機へと押し出す。奇妙な行動に制動を掛けるアクス。その間にビームカノンのエネルギーチャンバーを撃ち抜いた。
広がる閃光にすかさず右手にブレードグリップを握らせ、アクスの光へと向けてペダルを思い切り踏み込んだ。
(ラウンダーテールが反応し切れていない!)
閃光の中で真正面から斬りつけるつもりが、アクス機の上方に突進してしまっている。それでもビームカノンを向けようとしたが、薄れつつある閃光を裂いて迫ってきていた。
(読まれてた!)
一瞬の遅れがユーゴを窮地に追い込んでいる。左のカノンも斬られ、返す斬撃はブレードで受けるが、ビームが彼のアル・スピアの頭部を吹き飛ばす。
暗くなったコクピットで、それでもユーゴはアクスの光から距離を取ろうとする。しかしそれも叶わず、球面モニターが生き返った時にはいっぱいに敵機が映っていた。
「わああー!」
悲鳴が漏れる。
「墜ちろ」
「墜ちるかぁ!」
寸前まで迫ったブレードを躱そうとするのには反応してくれた。が、左腕は根元から持っていかれている。
(ブレード一本でどう戦う? 懐に突っ込む?)
瞬時にそんな賭けを思い付く。しかし、脳裏に違う言葉が甦る。
「損傷してもすぐに戻りなさい」
「無事に帰ってきて」
ペリーヌと、そしてラティーナの顔がよぎり、馬鹿な考えは捨てた。
(死ねない!)
歯を食い縛って頭をフル回転させる。
「足掻くな!」
突進してくるアクスに向けて、蹴りつけるかのように右脚を振り被る。蹴り出すと同時にコンソールを操作して根元からパージ。それに向けて右手のブレードを投げつけた。
下脚部には姿勢制御用のイオンジェットチャンバーがある。そこを貫くと小爆発が起こった。即座に機体を反転させたユーゴは全速でレクスチーヌへと飛ばせる。
「逃げるなー!」
アクスの咆哮が背中を押すかのようにアル・スピアはイオンジェットの尾を引いて駆ける。
◇ ◇ ◇
「ごめんなさい! また壊しました! すぐにできる限りのパーツ換装を!」
ハンガーに戻るなりユーゴは叫ぶ。
「坊主か! ちょうどいい。あれはお前のだ。乗れ!」
「え?」
最奥部には見たこともないアームドスキンが梱包を外されただけで立っている。ハッチが開放されている機体に近づくも、一瞬の躊躇いが生じる。それには理由があった。
(顔が無い)
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