RE:銭と課金のノスタルディア  ~異世界行ったのに、仲間増やすにはガチャしか手がないんですが~

黎明素

第一章 事故って異世界転移しても別に強キャラは仲間にならない

第1話



「くそっ、また外れレアか……」



 じわじわと嫌な汗をかきつつ、スマホをタップする手が震える。


 これは侘び石を貯めて行う乾坤一擲のガチャだ。


 なのに、当たり演出が来たかと思えば外れ、当たり演出すら来ない外れ。


 マスコットキャラクターの猫娘が行う小芝居にはこの頃殺意すら抱く。



 最初のリセットマラソンでは粘って粘って、


 目当ての星五つの最高レア"陽光の騎士 エステル"を引き当てた。


 エステルは回復こそできないが、一、二を争うタンク性能を持ち、


 本職には劣るが、最低限のアタッカーをこなせる万能キャラだ。



 それに加えて、生真面目な性格、橙色の髪を持ちまさに太陽を体現するような美貌も相まって、


 このゲーム、"ノスタルディア ストーリー"でも屈指の人気を誇る。



 だが、そこからは本当に運の無い毎日だ。


 エステルをエースアタッカーにしつつ、ノーマルガチャやイベントで手に入れた戦士で当座を凌ぐ毎日。



 結局のところ戦力増強はガチャを行うことが最も効率が良い。


 経済力は時短にも繋がるし、そもそも高難易度クエストもガチャ前提で組まれている場合が多い。



 通勤帰りの人で込み合う横断歩道前で、俺はスマホ片手にため息をつく。


 俺ことしがない社会人である"鈴木 恵介"は主人公である"自由の旅人 ヴェリ"を恨む。


 主人公はこの手のゲームの場合、色づけを行わない場合が多い。


 プレイヤーの分身であることと感情移入をしやすくするためだ。



 しかし、その主人公は何せぱっとしない。弱いというか中途半端な強さなのだ。


 最高レアが星で五つだとすると主人公のレア度は三。


 連撃を得意とした軽剣士であり、ストーリーの都合上必要なキャラバンを運営する旅人。


 紫髪で中肉中背の”如何にも”主人公然として設定された容姿を持つ。



 だが、イベントで出会う強キャラ達の多くは、ヴェリと邂逅せども仲間にはならない。


 あくまでガチャで引かなければどれだけストーリー上で親しくてもプレイヤーは使えないのだ。


 例えば"風塵の双剣士 セレニード"にはメインストーリー終盤でライバル視される。


 その後、紆余曲折はあるのだが最終的には明確に「俺もお前の冒険に加えてくれ」と文章中で言う。



 だが、リザルト画面ではあくまで、


 メインストーリークリアの報酬でガチャを引くために必要な契約石が貰えるのみ。



 何と言う理不尽。


 しかも報酬の契約石自体もガチャを一回も引けない程度だ。



「……仲間になるって言っても、なってねーじゃないか」



 何度でも言うが、俺はヴェリを恨む。


 そもそも文章中で明確に喋らないこいつの事だ。


 返答や、示唆されるくらいはあるのだが、どうにも押しが弱いのではなかろうか。


 そんなお約束にでさえ、多少の苛立ちを覚えるくらい戦力が増強されていないのだ。



 いや、正確に言うとたまに報酬でキャラを貰える場合ある事はある。


 しかしながら、星が二つのレア。最高でも星三つまでだ。


 これは明確な運営側からの、「強いキャラが欲しかったらガチャを引いてくださいね」という意思表示だろう。



 ついでに言うと、星五つのセレニードピックアップガチャも、そのメインストーリー実装と共に盛大に行われた。


 ぶっとばすぞ。



 ……しかし、俺は、どれだけ面白かろうとスマホアプリに課金する気はないのだ。


 いや、正確に言うとこれまでに他のアプリには課金してきたことがある。



 ―――何と言うのだろうか。ガチャは悪い文明だ。うん。



 毎月のクレジットカードの請求が怖くなり、リボ払いにまで手を出しそうになった頃に、


 俺はスマホアプリに課金をすることを辞めた。


 ついでに言うとその課金のお陰でボーナスの大半は飛んでいった。



 そのゲームの教訓……というか、


 眠れる自分自身の本能が怖くなってしまいそのゲーム自体を封印。


 今は"ノスタルディア ストーリー"に絞っている。



 さて、この"ノスタルディア ストーリー"だが、


 俺が最も評価している部分、かつ、はまっている理由がある。


 エステルの折でも触れたが、


 このゲームでは"タンク・アタッカー・ヒーラー"の三種の役割が機能しているのだ。


 つまり、レア度を高いキャラをガチャで出すだけではない戦略を求められる。


 無課金でも戦略次第では、高難易度クエに立ち向かえるという訳だ。



 勿論、バッキバキのお金湯水の如く使えますエステルちゃん可愛いよチュッチュ勢には勝てない。


 彼らが使うエステルなり、セレニードはもはやそのキャラの皮を被ったナニカだからだ。


 当然、リアルタイムで行われる対人戦闘やレイドでは遺憾なくその実力を発揮する。


 その暴力を、戦略云々で覆すことは難しいだろう。



 ……うん、その、なんだろう。今、なけなしの詫び石でガチャ引いてるのはそういう訳で。


 星五つがエステルだけじゃ勝てないんすよ、うん。


 未だに一軍メンバーの中にヴェリ入れてる状況なんです、はい。



 おかしいだろう?! この対人イベントで千位以内に入らないと星五つ確定ガチャチケットは手に入らないんだ!


 だけれども、明確に廃人の壁ってのがあって、


 千位以内なんて無課金では無理に決まってるだろ、いい加減にしろ!!


 ヴェリの攻撃じゃ相手の廃タンクにかすり傷しか入らないの! 


 中途半端な体力のエステルだけいつも残って袋叩きにされるの!



 不意の頭痛に、軽くこめかみを指で抑える。


 ダメだ、ストレスを解消するために行っているゲームでストレスを溜めていては本末転倒だ。


 そう思って、歩きスマホを続けている俺は気づかなかった。



 ―――そう、典型的というか、なんというか、信号無視をしてしまっており、


 そこにお約束のトラックが突っ込んできていたのだ。

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