Dream Garden

プロローグ_常磐碧

　きっとあなたは貴方の人生の中で一度は思うに違いない。

　自分に特殊な力があれば良かったのにと。

　魔法、瞬間移動、透明人間、タイムリープ、不老不死……。

　一理ある。

　人生は楽しいことより苦しいことの方が多い。

　もがいても。

　もがいても、もがいても、努力の果てには何も用意されていないことなどザラだ。

　そしてそんな貴方をせせら笑う人々さえ大勢いるだろう。

　とくべつ努力をしているわけでもないのに全てをいとも簡単に成功させ、貴方が取りたかった勲章も、恋の相手さえ、あまりにあっさり奪い絞り尽くす人間というのは五万といる。

　そんなことは世界各国共通日常茶飯事だ。

　加えてそれに対する「補償」はどこにもない。貴方の救世主はどこにもいない。

　たが、だからといって貴方自身が独りで奮起し、対抗心を燃やし、歯を食いしばり口の中を血で満たしながら走り続けたり、涙の一部を赤く鮮血に染めるほどの憎悪を抱きながら崖を登ったりしても、さりとて貴方は漫画やドラマの主役どころか脇役ですらない。逆転の脚本どころか一言の台詞さえ用意されていない。

　誰も貴方に興味はないし、むしろ無駄に酸素を消費する邪魔な存在でさえあるのだ。

　「現実」という微動だにできない事実から搾取され続けるのみ。

　そう。

　私は貴方の苦しみが解る。

　私も苦しくて苦しくて、仕方がない人生だったから。

　だからこそ、私は貴方に伝えたい。

　貴方が悪いんじゃない。

　「この世界」がダメなのだ。

　「人間」がダメなのだ。

　「社会構造」がダメなのだ。

　ならば、転換すればよい。

　「人間」は一切消えてなくなれば良い。

　「人間」なんか辞めてしまえば良い。

　こんな現実は現実でなくて良い。

　『夢』で良い。

　『夢』で良いんだよ。

　私達に与えられた当然の権利だ。

　「人間」は「人間」であるから醜いんだ。

　そんなものは全て消そう。

　私達は私達であろう。

　ただそれだけなんだ。