個室にまつわるものがたり オレの令和
@miokazu
第1話 オレの令和
その日は 2019年4月1日だった。
午後から、客先での打ち合わせがあるので早めに昼飯を済ませ、オフィス奥のトイレで何時ものようにオレは個室に篭りカチャっと鍵をかけた。携帯を片手に腰を下ろして、いつものように、ふーとひと息ついた。
何気にスマホをみると、画面に菅田官房長官が新元号が書かれた紙をもっていた。
あ、そうだ新元号発表だったな。
令和? ふーん、レイワね。令和かぁ。
ヘンテコだな、令和、
令和、へー令和か、や、悪くねえんじゃねえか。令和。
和俊はぼそぼそと呟いた。
菅田官房長官そのものがが令和って感じだな
おいおいそれってどういうことだ(笑)
令和かぁ、令和ね、こういう名前の女の子とか、いそうだな。いや女の名前ならレイラだろ。ん、でも悪く無いんじゃない?
彼女の名前、令和とかさ。
令和、オレの令和、案外しっくりくるな。
いやいや、
オレの彼女さ、令和って言うんだ。
誰かにちょっと自慢気に紹介するかのように和俊は呟いた。
髪は少し長めの茶色のストレート 白地に薄い黄色とブルーの花柄ワンピースが似合ってて。おっとりした性格。大人びてるようで、ちょっと子どもっぽいところがあるが、笑うとこれがまた可愛いんだな。令和。な、レイワ。
俺の頭の中で一気に令和はビジュアル化されて、オレの目の前に現れた。
その令和はオレを見てクスッと笑った。
令和はさ、乃木坂46の後ろの方にいる何とかって言う子にちょっと似てるよな。
そんなことないわよ、和俊、盛り過ぎ。
令和は笑いながらそう言った。
待てよ、乃木坂だぞ。悪くない。いや、レベル高くないか。オレの彼女、オレの推しメン、令和。
令和の花柄ワンピースが途端に初夏の軽やかな風に吹かれ、
チェックのブルーのワンピースに変わり、目の前で乃木坂46のメンバーの後ろで踊っている。肩より少し長い髪とワンピースの裾がその度に揺れている。令和、めちゃくちゃ可愛いなー!サイコー。
誰かがトイレに入ってきた気配がしたが、気にも止めずに和俊の目の前にはおどる令和でいっぱいだった。
令和、今度の休みどこ行きたい?
オレの肩越しにちょっと眼差しを上を向けた令和は
んーん、和俊の行きたいところでいいよー
と答えた。
横顔も可愛いんだよな。
え、オレの行きたいところ?さてとどこだろうな?そう言われると案外出てこないなぁ、そういうと令和はニコっと笑って、うん、私もそう。
それなら和俊の家で、ゲームでもしておこもりする?
あ、それもいいねとオレ。
オレんち?ヤバイ、家汚いぞ。二週間は掃除してないな。
令和、綺麗好きだしな。家に来るなら泊まる可能性もあるぞ。や、そうこなくちゃ。
そうだ、下着買わないとな。
令和はどんな柄が好きなんだ?
その前に形だろ。トランクスかな。
令和はさ、どんなのが好き?思い切ってそう聞くと令和はちょっと照れて、下を向きながら恥ずかしそうにちょっと腕を軽く掴んで、何でいきなりそんなこと聞くのよ、和俊、変なこと想像してるでしょ。でもねー強いて言うならトランクスかな。もっと恥ずかしそうに令和は下を向いてオレの腕を今度はちょっとぎゅっと掴んだ。そして2人でヘラヘラ笑った。や、やっぱり、オレの好みわかってんなー。令和。
オレさ、令和にメロメロだよ。
その時、トイレの入口のドアがパンと開き、よう、お疲れ
と声がした。
隣の営業部の先輩の聞き覚えのある声だった。
お疲れ様です。先に用を足してたのは同じ営業部の1つ上の先輩だった。
決まったな、令和だってよ。万葉集からとったらしいよ。古いところから引っ張ってくんだな。
万葉集? 和俊は小さく繰り返した。
万葉集って平安時代だったか奈良時代とかのあれだろ?そう聞いたその途端、オレの令和は、
乃木坂46の後ろの方で軽やかに踊っていた令和は、百人一首の手札に出てくる貼りついたべっとりした腰まである黒髪の小野小町風に変わった。
百人一首の濃い緑色の額縁に入った令和は、顔はのっぺりと能面真っ白で、下膨れの一重まぶたで、軽やかどころか一ミリも動かなかなくなった。もはや可愛いとか 無縁だ。
え、令和。
百人一首の小野小町。
うーん、やっぱオレの好みじゃないな。
令和。
スマホのボタンを親指でポチっとおして暗くなった画面のスマホをポケットにしまうと、和俊は立ち上がり、カチャと鍵を開けて、個室から出ていった。
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