三日目の朝

「ドアが閉まります」

プシューと音を立てながら閉まる電車のドア。

(眠い・・・・・)

俺、伊集院薫は満員電車のつり革を持ちながら電車に揺られていた。揺られている間も電車の電子掲示板ニュースでは昨日起こった暴動に対してのことばかり報じられていた。電車が止まる可能性を考えて早めに家を出た自分にとっては迷惑な話以外なんでもない。あくびで開きそうになる口を必死にこらえながら電車の窓を眺めていると、窓の景色の奥に古い、植物のが絡まっている建物が見えた。周囲が白色、もしくはビルが立ち並んでおり、その建物の乳白色の薄汚れた建物を更に際立たせていた。

(あんな建物、あったかな・・・?)

実習先の学園は、自分の大学と一緒の方向にあるので電車の窓からは見慣れた景色だ。人口太陽光を煌めかせながらどっしり立つ巨大なビル群、ビルの間の歩道を退屈そうに歩く人、電磁波の支柱として立つ大きい鉄鋼の建造物。

その建物が他の建造物とは明らかに年代が違う、古い印象だったから目に留まったのかもしれない。速いスピードで駆けて行く電車の窓から、俺はその建物が見えなくなるまで眼で追っていたが、窓の視界から消えると考えることは今日の学園実習の事ばかりだった。

(今日は実習どうなるんだろうな)

昨日は世界政府に対して大きな反対デモにより、電車、個人タクシーなど交通機関がストップしていたが、幸い今朝は電車はいつもどうり動いている。

生徒はリモート授業がメインになるんだろうが、それが実習期間中ずっとは実習生にとって辛い。生徒とのコミュニケーションがずっと画面越しの会話だと、いざ生徒と教師全員がクラスに集まって直に《じかに》会話は何となくぎこちない。リモート

俺は、何度目かのため息を静かに吐いていた。





「おはよう、伊集院」

「お、おはよう」

学園に着いて挨拶してきたのは、小塚。この女学園の教育実習生としてきた唯一の男性仲間。余裕があるのか、性格がクールなのかいつも涼しい顔をしている小塚だが、今日はどうやら違うらしい。

「小塚、眼にクマができてるけど大丈夫か?」

「ん?ああ、ちょっとやることが多くてな。それより!!」

小塚は俺の肩を掴んできた。

なにやら鬼気迫る顔をしている。

ちょっと怖い。

「な、なんだよ」

「伊集院、目立たず、普通の生活しろよ。絶対目立つことするなよ」

「はあ?」

小塚の言っている意味が分からず、混乱していると、

「おはようございます」

学長のナンシーの声が職員室中に響いた。

俺と小塚が話している間に、いつの間にか学長と教頭が来ていた。

「昨日は遅くまで生徒の送迎に関わった先生方、ご苦労様でした。皆さまご存じのとおり、学園の外はいつ、また暴動が起きてもおかしくない状況です。そこで、世界政府関係者から一人の派遣された方を先生方に今日ご紹介させていただきます」

それでは、入って下さいっと言われて入室してきた人物—―、それには、誰もが我が眼を疑った。

その人物は、昨日学園から緊急着陸してきた軍の輸送機から出てきた男だった。

これには学園関係者も驚き、どよめいた。

「どうして軍のひとが来るの??」

そんなひそひそ声が聞こえてきそうだった。





                ♢




「彼の名前はミハイルと言います。軍の中でも特殊部隊の所属だそうです。」

学長は昨日突如として戦闘輸送機で来た軍人を紹介し始めた。

「昨日、急に決定したことなのですが、世界政府が生徒の安全のために軍人を学園の守衛として派遣されました。皆さんご存じのとうり、我が学園の生徒の中には世界政府の関係がある保護者もいらっしゃいます。今回の世界政府と抗議デモが落ち着くまでは学園のバスの送迎や学園内の警備に携わることになります。」

「皆さん、短い間とは思いますが、よろしく」そう言って、彼はサラサラな金髪を揺らしながら職員に向け会釈した。

「あと、学園側としても授業を生徒の通学が安全と判断されるまでしばらくリモート授業を行います」

やはり、リモート授業を行うらしい。それは誰もが予想できた。

学長の話は続いた。

「学園の一部の生徒には社会的地位のある親、世界政府と少なからず関りがある親の生徒は家自体が反デモ隊に襲撃される恐れから数名の生徒は学園に泊まり込みをさせて欲しいと保護者から要望がありました。そこで、今回学園内にある宮様の宮殿の別の離れの建物を臨時の宿泊場所とすることになりました」

と教員全員に伝えられた。

社会が大変でも、リモートすればいいだけだし、生徒には影響が少ないと思っていたけど・・。

(有名な親を持つ子供は大変だな、こりゃ)

朝礼が終わり、学園全体の先生たちが生徒にリモート授業の決定と学園に宿泊する生徒の送迎バスの手配の連絡を一斉にし始めて、全体職員室内は一気に慌ただし状態になった。

「大変なことになったな」小塚に向けて言った。

「ああ、そうだが、伊集院の方が大変だろう」

「え、なんで?」

「お、お前、お前のとこは特別学級のクラスだろ!?あのクラスが集められている理由思い出せ」

「え」

特別学級の生徒も勿論お金持ち&有名な親である訳で・・・・・・。

そう言われて、やっと俺もヤバいことに気づき始めたその時・・・・。

「伊集院先生、小塚先生ですよよね」

声をかけてきた人物はなんと、あのミハイル、軍人だった!

「特に伊集院先生のとこの特別学級は護衛は必要なクラスと伺っています。よろしく」そう言って握手を求めてきたのでこちらも握手を返す俺達。小塚はすごい睨みをきかした形相だったけど。

「小塚先生のクラスは2人、学園の宿泊で昼からの送迎バスに乗車おねがいします。そして、伊集院先生の特別学級は―――――」ミハイルは言いながら俺を見る。

ドキドキ。

イヤな予感。

「五人全員が学園に宿泊。なんで、伊集院先生も社殿にお泊り、決定しましたよ!」

(ああああああああああ、やっぱりりりりりりり!!!)

かくして、俺達教育実習生の何名かは学園に宿泊する生徒の送迎バスに一緒に同行、&お泊り(俺)になったのだった。

(ウキウキ、可愛い子達と楽しい教育実習とは・・・・)

ドンドン俺の想像していた実習からかけ離れている・・・。


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無人島でJKと一緒なんてラブコメ過ぎる(近未来編) 森羅解羅 @bookcafe666

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