第381話『三寒四温にはまだ早い』

せやさかい


381『三寒四温にはまだ早い』さくら    





 サンカンシオンなんかなあ……



 食後のお茶を飲みながらお祖父ちゃんが呟く。


 プ(* ´艸`)


 伯母ちゃんが口を押える。


「まだふた月は早いですよ、お義父さん。お茶淹れ変えましょうか?」


「せやなあ、さくらは?」


「あ、うちがやるよ、おばちゃん」


「いいわよ、お祖父ちゃんの相手してあげて」


 伯母ちゃんは、二つとも湯呑を持ってキッチンへ。気ぃついてないお祖父ちゃんが空気を掴む。


「あれ?」


「伯母ちゃんが淹れかえてる。お祖父ちゃん返事してたやないの」


「あ、せやったか?」


 このシチュエーション、慣れてへんかったら――いよいよボケが始まった!?――と思う。


「お祖母ちゃんが逝ったんは、こんな日ぃやったんやろ?」


「せや、さぶいのが苦手やったさかい、ちょこっと温くなった雨の朝に逝きよった……」


 うちは小さかったから憶えてへん。お母さんから聞いて、春雨はお祖父ちゃんには思い入れがあると知ってるだけ。


 


 お祖父ちゃんが思わず勘違いしたぐらいに、今日は温い。




 サンカンシオンが三寒四温やいうことは、今やからこそ知ってる春の兆しの慣用句。


 初めて聞いたのは、小三くらいの朝礼で。校長先生が「サンカンシオンの季節になりました……」と訓話の枕で言うた時。


 え、また参観があるのん!?


 ビックリした。二学期の授業参観は、お母さん、ちょっと無理して休みとって来てくれた。


 お父さんが失踪して間もないころやったから、めっちゃ嬉しくって、何回も教室の後ろに他のお母さんらといっしょに並んでるお母さんを見た。


 せやさかい、サンカンは参観や思て、嬉しさ半分戸惑い半分。


「シオンてなんやろ?」


 友だちに聞いたら「心の清い人のこと」と答えた。その子はクリスチャンの家の子やった。


 なるほど、三学期は、子どもらの心の清さを重点的に観る参観なんかぁ!


 アホのさくらは一週間ほどは、そない思てたぞ。




「さくら、スマホ!」




 留美ちゃんが、アラーム鳴ってるスマホを持ってきてくれる。


「おお!」


 開けてビックリ玉手箱!


 宗武真監督から――キャラデザ決定稿――のサブジェクトで画像が送られてきた。


「おお、これは正しくさくらや!」


 お祖父ちゃんが感激して、おっちゃん(伯父さん)、詩ちゃん、テイ兄ちゃんが寄って来て、伯母ちゃんが手回し良く全員分のお茶を持ってきてくれる。


「声もさくらがやるの!?」


 詩ちゃんが身を乗り出す。


「そうだよね、この顔にはさくら以外の声は考えられないよ」


 留美ちゃんも賛同する。


「いやいや、声は花園あやめさんがやるんやけどね(^_^;)」


「え、花園あやめ!?」


 オタクのテイ兄ちゃんの目ぇが輝く。


 頼子さんらにも見せたげよと思たけど――第三者への転送はご遠慮ください――と注意書き。


 よし、学校で見せたげよ!


 


 はよ月曜日になれへんかなあ♪


 


☆・・主な登場人物・・☆


酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生

酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。

酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居

酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父

酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる

酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生

酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 

榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 

夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生

ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉

ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長

月島さやか       さくらの担任の先生

古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン

百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長

女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首

江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  

さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)

  

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