第379話『犬が西向きゃ尾は東・1』

せやさかい


379『犬が西向きゃ尾は東・1』さくら    





 ええと……東京からの帰りです。



「ごめん、この土日で東京に来てほしい!」


 前生徒会長の百武真鈴先輩に拝み倒されて……拝み倒した本人は、うちの横でアイマスクして寝てます。


 こんなご時世やさかい、新幹線の車内はみんなマスクしてんねんけど、その上にアイマスクしてるさかい、ちょっと怪しい。


 高校生声優として人気うなぎのぼりの真鈴先輩は顔がさす。


 駅やら電車の中では高い確率で正体がバレてしもて、サインとか写真とか頼まれるんで目隠しのためらしいねんけど、ほんまに寝てるしぃ。


 真鈴先輩は原子力で動いてるんちゃうかというくらいに活発な人やねんけど、その秘訣は、この――どこでも寝られる――いう技があるからやないかと思う。



「みなさん、リアルさくらでーす!」


 

 先輩自ら両手のキラキラエフェクトやって紹介されたのは、江戸川アニメの会議室。


「は、初めまして、酒井さくらです!」


 元気なだけで、普通の挨拶すると。


 オオオ!


 教室の半分くらいの会議室にどよめきの声があがる。


 正直、ビビる(;'∀')。


「こちらが、監督の宗武真(むねたけまこと)さん」


「宗武です、東京までお呼びたてしてごめんなさいね。僕の我がままなんです、この日しか空かなくってねぇ(^_^;)」


「感謝してくださいよ、監督。高校生って言ったて、急に東京来るのは大変なんですからね」


「はい、しろと言われたら、たとえ足の裏でもお尻でも舐めさせていただきます!」


「アハハ、さっそくのセクハラありがとうございます……で、向かいが作監の江原さん……」


「サッカン?」


「作画監督、アニメの絵のグレードを管理してる偉い人」


「江原です。ご本人に来ていただいて本当に助かります」


「それから……」


 続けて、第一原画さんやらのアニメーターの人たち、プロデューサーやら制作進行やら演出やらナンチャラやら、十数人の人らが紹介されて、紹介されてる間にも五六人の人が入ってきて、トドメにうちでも知ってる女の人が入ってきた。


「すみません、遅れました」


 真面目な大人びた声でビックリしたんやけど、姿形と声質は、まごうかた無きベテラン声優の花園あやめさん!


 シリアスからコメディー、可憐から極悪まで、声と縁起の幅では五本の指に入ろうかという売れっ子さんです。


 真鈴先輩も売れっ子やねんけど、学校でしょっちゅう顔合わせてるし、校内のイベントやらではお馴染みやから、そんなに意識はせえへんねんけど、あやめさんのリアルは格別ですわ。なんか、背中に電気走った!




 事情は、こうです。




 江戸川アニメが元請けになって作られてる新作春アニメ『犬が西向きゃ尾は東』の制作が遅れてる。


 ほら、年末に、うちら東近江市のお寺で除夜の鐘撞いてたでしょ(376回『四回目の大晦日』)。その時に頼子さんのスマホに真鈴先輩から電話がかかってきて、なんか揉めてた。あれですわ。


 アニメ制作のことは、よう分かれへんねんけど、四月のオンエアまでに間に合うか間に合わへんかの瀬戸際らしい。


『犬が西向きゃ尾は東』というのは、東京のJKと大阪のJKの物語。二人ははとこ同士。はとこいうのは祖父母のころに兄弟やったいう関係で、めっちゃ小さいころに曽ばあちゃんの葬式で会って以来で、日ごろは親類付き合いも無い。


 それが、別々の事情で大阪と東京に入れ違って引っ越して苦労するというコメディー。


 東京のJKは真鈴先輩、大阪のJKは花園あやめさんが声を当てることになった。


 ところが、五回目までの絵コンテが出来て、制作発表までしたとこで、監督と作監が頭を抱えた。


 大阪のJKのキャラの細部が決まれへん。


 いちおう中肉中背のポニテ、素顔ではキツメやけど、笑うと愛嬌があるという線で進んでんねんけど行き詰ってしもたんやそうです。


 年末には「よし、この線でいくぞ!」と監督は書き上がったばかりの絵コンテを自慢げに振り回してたんやけど、新年を迎えて再び挫折。


 なんや、ヒントは文化祭の動画。ほら『サクラウメ大戦』の芝居やったり、駅前までパレードやった、あれですわ。


 あれに写ってる酒井さくらが参考になったという、嬉しい話やねんけど……うちなんかを参考にするから行き詰るんやと思う……。


「いちど、リアルさくらに合わせてくれ!」


 と監督は叫んだ!


「やっぱり、映像資料からだけでは掴めん! 頼む! 百武真鈴!」


 ほんで、真鈴先輩に頼んだ。




 せやさかい、東京に一泊しての帰りの新幹線いうわけですわ。




 素人のうちが見ても――だいじょうぶ?――いう感じ(^_^;)。


 この話は、とうぶん続きそうな気配です。ナマンダブ ナマンダブ……




☆・・主な登場人物・・☆


酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生

酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。

酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居

酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父

酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる

酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生

酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 

榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 

夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生

ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉

ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長

月島さやか       さくらの担任の先生

古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン

百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長

女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首

さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)

  

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