第322話『こら、さくら!』

せやさかい


322『こら、さくら!』さくら   





 ヤッター!!


 こら、さくら!



 思わず出た声とガッツポーズしたら、即怒られて、教室中の注目を浴びてしもた(#^_^#)。


 メグリンは、大きな背中を振るわせて笑いをこらえてるし、留美ちゃんは自分の事のように恥ずかしがって赤くなるし。


「あはは、すんませ~ん(#^▽^#)」


 頭掻いて謝るんやけど、緩んだ顔は直ぐには直りません。




 なにをヤッターのかと言うと、中間テストの欠点を挽回したんです!




 今日は、終業式で、体育館での暑苦しい式が終わって、教室で成績表をもらったとこ。


 中間テストでは成績伝票だけやったんで、カッチリした成績表は、これが初めて。


 初めての成績表を二色にせんで、ほんまに良かった!


 なにごとも最初が肝心やさかいね。


 もうちょっと詳しく言うと、みんなの笑いには二つの山があった。


 最初は、うちの「ヤッター!!」やねんけど、それに被せてペコちゃん先生が「こら、さくら!」と反射的に怒ったこと。


 真理愛学院は、お行儀のええミッションスクールで、先生も礼儀正しい(体育の長瀬先生は例外、ほら、学校の玄関で怒られた先生(297回)、こわいオバハンや思たけど、めぐりんが発作起こした時(318回」)は、じつに頼りになる先生やった!)。


 生徒を呼ぶときは、必ず「~さん」と呼んでくれはる。もちろんペコちゃん先生もそうで、生徒を下の名前で、それも、頭に「こら!」を付けて呼ぶことは無い。


 それが、瞬間カチンと来て、思わず口に出た「こら、さくら!」は、怒られた方も懐かしい中学の時の怒られ方。


 怒る方も起こられる方も、漫才のボケとツッコミみたいに呼吸が合うてる。


「い、いや、だからね、もう中学生じゃないんだからね……」


 先生も気まずそうにブツブツ。


「先生、聞いていいですか?」


 伊達さんが手ぇ挙げた。


「え、なにかしら?」


 一瞬で、みんなの担任月島さやかに戻って質問を受ける。


「先生と酒井さんは、中学でも担任と生徒だったって本当ですか?」


「え、あ、それは……」


 さっきのボケとツッコミと呼び捨ての「さくら!」を聞いてしもた生徒らに嘘は言えません。


「ええ、そうです。さくら……酒井さんは中二から二年間担任で、わたしも、ここに来て受け持ちの生徒の名簿見てビックリしたわ」


「ええ!?」「やっぱり!?」「アハハ!」「おもしろ~い!」と、教室中からリアクションをいただく。


 で、すかさず返した。


「先生、それは二人だけの秘密だったのに……」


 我ながら、サスペンスドラマみたいにお返しする。


 アハハハハハハ!


 教室中が大笑い。


「はい、次配ります、榊原さん」


 先生に呼ばれて、うちの次の留美ちゃんが成績表をもらいに行く。


 すれ違いざまにアイコンタクト。


 留美ちゃんも、おんなじペコちゃん先生の生徒やったんやけど、真面目な留美ちゃんは、そういうの苦手やさかいね。


 ――留美ちゃんの秘密は守ったよ!――


 アホは、うちだけでええんです。


 とっさに、そういう気配りができるようになったんですわ。


 いや、子どっぽいはしゃぎ方せんほうが大事やろて?


 はい、そのとうりです。


 今年も、無事に夏休みが迎えられました。




☆・・主な登場人物・・☆


酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生

酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。

酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居

酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父

酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる

酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生

酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 

榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 

夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生

ソフィー      頼子のガード

月島さやか     さくらの担任の先生

古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

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