第319話『めぐりんからの手紙』

せやさかい


319『めぐりんからの手紙』さくら   





 一昨日は、ごめんなさい。そしてありがとう。



 みんなには言ったことないけど、あれがわたし、古閑巡里の持病なんです。


 度を超えたショックを受けたり、極度に興奮すると過呼吸になって、ひどいときは意識を失ってしまいます。


 小学校の頃にお医者さんに診てもらったんですけど、原因はよく分かりません。


 とにかく、興奮しすぎないよう、ショックに陥らないよう、わたしも家族も気を遣ってます。


 父は陸上自衛隊の幹部です。


 階級は一佐


 いわゆる職業軍人なので、子どもの頃から引っ越しと転校を繰り返しています。


 父は、二佐になったとき「これからは、自分一人で転勤するから、巡とお母さんは家を買って定住しよう」と言ってくれました。でも、わたしもお母さんも、定年で退官するまで、父に付いていく決心をしました。


 家族は、できるだけいっしょに暮らすものだと、わたしもお母さんも思っているからです。


 今年は、年度末の急な異動で、わたしとお母さんは大阪に引っ越すことになりました。


 引っ越して真理愛学院に入って、酒井さんや榊原さん、そして散策部の夕陽丘先輩、ソフィー先輩に出会えて、とてもラッキーでした。


 めったに会えない父ですが、日に一回、お昼休みに入った時にメールをくれます。


 訓練などでメールが送れない時は、事前に連絡してくれます。


 それが、一昨日は、事前の連絡無しにメールが来ませんでした。


 これは、なにかが起こったに違いない。


 そう思って、直ぐにネットで調べてみました。


 訓練でもないのに、連絡が来ないのは緊急事態が起こったに違いないからです。


 そして、調べてみたら、奈良県で安倍元首相が撃たれて心肺停止状態というニュースが飛び込んできました。




「え、これでしまい?」


 唐突に終わってる手紙に、ちょっとビックリ。




 実は、今朝、郵便受けにメグリンの手紙が入ってた。


 新聞といっしょにリビングに持って行って、さっそく読もうとしたんやけど、やっぱり自分の部屋で読みたいんで持ってきたとこ。


「さくら、落としてたわよ」


「え、ほんま!?」


「うん、新聞の広告の上にあった」


「あ、ありがとう!」


「わたしも読んでいい?」


「へ?」


「だって、最後に『酒井さくら様 榊原留美様』って書いてある」


「え、え? あ、ほんまや! はい、どうぞ」


 留美ちゃんは一二枚目を、うちは、三枚目を受け取って続きを読む。




 父は、常々「ひょっとしたら戦争が起こるかもしれない」と言っていました。


 世界は、わたしたちがのほほんとしている内に、緊張の度を増しています。ウクライナのこともそうだし、南西諸島や北海道でも油断がならない状況になりつつあるんだそうです。ロシアの外務大臣は「北海道の北半分はロシアの権益がある」とか言っています。


 でも、父は「安倍さんがいる限り、当面は戦争に巻き込まれることはないよ」と言ってくれます。父は、安倍さんが打ってきた外交政策は功を奏しているから、安倍さんがいる限り大丈夫。安倍さん、まだまだお若いからね」と言っていました。


 わたしも、そうだと思っていました。


 その安倍さんが、撃たれて、そして夕方には亡くなってしまいました。


 お父さんは、そのことで、急な任務が入ったかして、メールが来なかったんだと思います。


 そう思ったら、目の前が真っ暗になり、あとは、みんなのお世話になった通りです。


 もう、元気になったので、お礼を兼ねてお知らせしなくてはと筆を執りました。


 メールやラインにしなかったのは、スマホやパソコンでは情報が洩れるからです。


 郵便では着くのが週明けになってしまうので、自分で投函します。


 ほんとうにありがとう。


 月曜日から期末テストですね、がんばりましょう!



 古閑 巡              酒井さくら様  榊原留美様




「よかった、めぐりん元気になったんだ!」


「う、うん……」


「え……どうかした?」


「明日から試験やいうのん、忘れてた!」


「ええ!?」


 一昨日から、安倍さんのことやら、参議院選挙のことやらでネット見まくりで、ぜんぜん気ぃつけへんかった(;'∀')。


「もー! 数学と英語欠点なのに、なに言ってんの!」


「る、留美ちゃんこわいよ~」


「さっさと顔洗って! すぐに勉強開始!」


「せやけど、朝ごはん……」


「一時間、勉強してから! さっさとやる!」


「は、はい~~~(´;ω;`)」





☆・・主な登場人物・・☆


酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生

酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。

酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居

酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父

酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる

酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生

酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 

榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 

夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生

ソフィー      頼子のガード

古閑 巡里(めぐり)さくらと留美のクラスメート メグリン


 

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