第318話『めぐりん倒れる!』

せやさかい


318『めぐりん倒れる!』さくら   





 お財布持って食堂に行こうと腰を浮かした時、変な音がした。


 ヒュッ


 なんか小さなブラックホールが出来て、瞬間で周囲の空気を吸い込んだような音。


 振り返ると、スマホを持ったメグリンが目を見開いて、口を酸欠の金魚みたいにヒクヒクさせたかと思うと、いままで聞いたことのない、押し殺して絞り出すような悲鳴を上げた。


 アア アアアア……


 みるみる真っ青になったメグリンは、ハッ ハッ ハッ……と、つんのめるような荒い息になって、次の瞬間机に手を付いた。


「ちょ、どないしたん、めぐりん!? ワ! ちょっとおお!」


 ドサ!


 180センチ近い身長のメグリンが、わたしに覆いかぶさるようにして倒れてきた!


「キャー!」「古閑さん!」「メグリン!」「だれか、先生よんできて!」


 何人かの声がいっぺんにして、昼休みに突入したばっかりの教室はパニックになってしもた!




 日直の伊達さんが十秒ほどで長瀬先生(ほら、入学して間もないころ玄関で怒られた体育の先生)を連れて戻ってきた。


「過呼吸やな、伊達、保健室行って酸素ボンベ、居てはったら保健室の先生にも来てもろて!」


「はい!」


 伊達さんは、その足で保健室にすっ飛んで行く!


「古閑、大丈夫や、先生がついてるさかいなあ、ちょっとリボン緩めるで」


「は、はぃ……ハッ ハッ ハッ……」


 かろうじて返事はするけど、荒い息は続いてる。


「酒井、じぶん、古閑の友だちやな」


「はい」


「手ぇ貸して」


「はい」


「古閑、上体起こすぞ、前かがみで座ってみよ……」


 大柄なメグリンの背中に手をやったかと思うと、長瀬先生は、めっちゃ優しくメグリンを起こして、前かがみに座らせた。うちは、手ぇ添えてただけ


「そうや、これで、ゆっくりと前かがみで呼吸……ゆっくりと吐いたらええからな……そうやそうや、すぐに楽になるからな、楽になって昼ご飯食べならなあ……」


「あ、食堂……」


 気の回る留美ちゃんは、食堂のランチが売り切れになるんちゃうかと、腰が浮きかける。


「治ったら、昼は先生が奢ったるからな、焦ることはないで……せやせや、ゆっくりと息吐きぃ……」


 玄関で怒られた時と違って、めっちゃ優しい。


 そうやって、落ち着かせてるうちに伊達さんが保健室の先生連れて戻ってきた。


 やっぱり、その道のプロ、保健室の先生と長瀬先生の手当てで、急速に落ち着いてくるメグリン。


「念のために、ちょっと保健室でやすもう」


 先生らに促されて起き上がるメグリン。


「メグリン、スマホ……」


 拾って渡そうとしたスマホの画面には、ショックなニュースが出てた。




 元首相が西大寺で撃たれて心肺停止状態……!?





☆・・主な登場人物・・☆


酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生

酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。

酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居

酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父

酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる

酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生

酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 

榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 

夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生

ソフィー      頼子のガード

古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン


 

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